麻倉怜士
2000.5.5
デジタル・ネットワーク時代において、ソニーとユーザーをつなぐのが「プラットフォーム」である。
それがあって始めて、●「個人が本当に必要なコンテンツやサービスを提供する」(出井社長)
ことができる。ソニーのコンテンツは、ソニー・コンピュータ・エンターテインメントのプレイステーションのゲーム、ソニー・ミュージックエンタテインメントの音楽、ソニー・ピクチャーズの映画という具合に映像、音楽、インタラクティブと、現代のエンターテインメントとして必要なアイテムを押さえ、次にそれを家庭と個人のもとまで届ける手段を開発する。それがスカイ・パーフェクTV!,ソネットの放送とインターネット、そしてケーブルテレビのプラットフォーム群だ。
コンテンツ、プラットフォームと来る一気通貫の先が家庭と個人である。そこでは3つの、その名もネットワーク・カンパニーがネットワークを張る。
ホームネットワークカンパニーがテレビを中心にしたホームネットワークを、
パーソナルITカンパニーがパソコンを中心にしたパーソナルネットワークを、
子会社のソニー・コンピュータ・エンターテインメントがプレイステーション2を中心にしたエンターテインメントネットワークを担当する。
例えばホームネットワークカンパニーが、いま開発している,「1本のケーブル」と「1つのリモコン」の簡単ネットワークを「2001年」までに実現する「111計画」。これにてネットワークでなければ味わえない、操作の楽しさを実現するのだ。
逆の方向から述べると、このようにしてホームネットワーク群を確立したら、次に、コンテンツが上流から下流へ流通する垂直ネットワークを通じて、さまざまなコンテンツをそこに送り込むのである。
ソニーはコンテンツ、流通、端末3つを一挙にわが手に収める。こんな芸当ができるのは世界広しと言えども、まさにソニーだけである。
インフラストラクチャーの構築、フォーマット開発、そして製品の水平方向のネットワーク要素をすべての自らが開発し、さらにコンテンツ、流通、端末という垂直のストリームも構築する。つまり全方位でデジタル・ネットワークを開拓するのだ。
そんなソニー流のネットワーク展開の目的が●「パーソナル・ソリューシュン・カンパニー--ソニーだから、楽しいことを提供する会社でありたい」(出井社長)ということだ。
ネットワーク関連の研究所の所長がこう言った。
「余暇時間(生活に関係ない時間)を楽しくする製品やコンテンツやサービスがソニーなのだと思っています。今までの本を読んだり、音楽を聴いたり、映画を見たり、友達と話したり食事をしたりという時間をもっと豊かで楽しくしたり、あるいは深い感動をもたらしたり、あるいはコミュニケーションの輪を広げたり、おいしい時間にしたり、クールな時間にしたりするのが、これからのソニーです」。
これからのデジタル・ネットワーク時代には、「ソニーと常時つながる」という絆が戦略的にきわめて重要になる。
となると、ひじょうにバーチャルの要素が強まるわけだが、ソニーは、やはりリアルなものをつくってこそソニーである。
デジタル時代は、オープンネットワークで花開く。そこでは、ともすればオープン環境の下に、おなじような製品が氾濫するおそれもある。それはソニーの大嫌いなところである。ソニーは、デジタル・ネットワークのもとで、いかに他にない魅力を獲得するかに全力を注ぐ。その意味ではネットワーク時代にこそ、製品づくりにおける「ソニーらしさ」を発揮させるべき時である。
魅力あるものづくりの力は,アナログ時代以上にデジタルになったら、より求められる。イメージ、外観のデザイン、触った質感、使いやすさ、持つ誇りという点での、ソニーのアナログ時代の研鑽は、これからも、きわめて強力な製品作りの核になる。それにデジタルの部分は真似することは出来るが、感覚はその人特有のものだから、真似は決して出来ないのである。その具体例として、パソコンという差別化のきわめて難しい分野で、大胆な差別化に成功したVAIOのC1のケーススタディを追った。
多くのソニー本が”出井礼讃本”になっているが、私は虫の目からのソニー本を書いた。ぜひお手に取られんことを。