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サラリーマン解放論  社員A

社員A
2000.1.27


「サラリーマン自立論」の続編である。

 そもそも、産業革命以前は会社に勤めている人間などほとんどいなかっただろう。それならカイシャと自分が不可分だなどというのは単なる思い込みである。

産業革命以後、株式会社が巨額の資本を集めて大規模な事業を行うようになり、そうして競争力をつけた大資本が小さなカイシャを飲み込み、現在に至っている(日本の場合は、農耕に適した土地に集落を作り、集団で農作業を行う文化があったと指摘される向きもあろうが、それは農作業の話であって、企業の中になぜ農村文化を持ち込むのかご説明を求めたい)。

 大企業は資本だけでなく、優秀な人材も掻き集めている。その結果として大企業の中には多くの芸者型社員が存在するようになってしまった。現在の大企業は、「本来は集まらなくてもいい人を無理に集めている」とまでは言わないが、人材を抱え込もうとするあまり、その中にいる社員は「外に出たら死ぬぞ」と強く思い込むようになってしまっているのだ。

 しかし私は、企業への人材や資源の集中は現在が限度であり、この後はどんどんばらけるようになるだろうと予測する。
 いままで大企業に属していなければ商売ができないと思われていたのは、看板がない個人は信用がないので自由な取引ができないと思われていたからだ。しかし、インターネットはそうした制約をやすやすと飛び越える。
 どんな大企業が作っているサイトでも、面白くなければ見向きもされない。逆に金髪のにいちゃんのサイトでも、面白ければ一日に何万人という人が訪れる。つまりインターネットにより、個人は大企業の看板を使わなくても、直接顧客をつかむチャンスを得たのである。



 一日に数万人の購読者を持つメールマガジンを発行しているサラリーマンも、既に何人か存在している。現在、メールマガジンの広告料は一人あたり1円~1.5円が相場なので、代理店の手数料を抑えることができれば、こういう人は会社を辞めても十分やっていくことができる広告収入を得ることができる計算になる。現在は代理店の取り分が高いが、代理店間競争が行われれば手数料は適正水準に落ち着くだろう。
 インターネットによる可能性は、個人の前に大きく開かれているのである。

 「いやいや、それは特別な技能のある人についてであって、何の芸もない人は搾取されるという構造は変わらないだろう。リストラされた社員にはインターネットなど関係ない」などと悲観することはない。
 失業者は、お金はなくとも時間はある。とすると、たいした技能を持たなくとも、地域のコミュニティで必要とされている仕事をすることができるだろう。人手のかかるサービスの需要は常にある。例えば、ベビーシッターなどがそうだ。インターネットでそうしたサービスを提供するページを作ればよい。それも地域版で、一つの駅か、せいぜい一つの市の中でサービス提供者が探せるようにするのである。実際、カナダなどいくつかの国では、そのようなサイトが発達し始めている。
 そうしたサイトに、一人1000円/月くらい払って「自分がサービスを提供しますよ」と広告を載せる。自分のサイトへのリンクを載せてもいいし、メールアドレスや、電話連絡先などを載せておけば、注文を取ることができるだろう。サイト運営者も、そうした広告が何百件か集まれば、十分生活することができるだろう。

 消費者から見ると、派遣会社に注文したとしても、派遣会社がどれだけ名のある会社であるかということはほとんど関係ないことで、むしろどのような人が来てくれて役務を提供してくれたかが問題なのである。それは証券マンへのニーズと似ている。証券マンが野村かメリルリンチかにはまったく関心はない。どんな人が来て、どういう情報を提供してくれたかが問題なのだから、大企業であろうがなかろうが関係ないのである。

 つまり、会社に属していなくとも関係のない商売(サービス業が多いだろう)については、もはやサラリーマンでなければならないという制約はなくなりつつあるのである。そしてそれを直接的に、あるいは側面から支援し、可能にしてくれるインフラが、インターネットなのである。
 インターネットは、ビジネスにかかるコストを引き下げて大企業でなくてもできるビジネスの範囲を広げている。それだけに、大企業にとっては、インターネットを利用した個人ビジネスの台頭は脅威となる可能性もあるだろう。

 会社の看板に隠れて責任の所在をはっきりさせないという態度も、この先は通用しそうにない。そこそこ働いて、食べられればのんびりしてもいいやという価値観の人には、会社を去ってもやっていける環境が整いつつある。逆に頑張ってバリバリ仕事したいというひとは、馬車馬のように働いていただけばよい。
 いずれにせよ、すべてのサラリーマンには今までなかった選択の自由が与えられつつあるのである。

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