4秒でわかる Pin Point ワールドカップ2002 1次リーグ

text by 雅子さま

1次リーグ    2002/6/3~6/14


6月25日 まだスペインを許してはいけない

● チリースペイン 1−2  プレトリア
37分イエニスタが追加ゴールを決めて、コーナーに「見たか!」的な表情で迫ってきたシーンは、映画『GOAL! 3』主役のクノベッカーがレアルマドリーのユニフォームで演じたそれのデジャビュ。これから華麗なシーンが続いて、待ちに待った“スペイン”が見られると期待したら、甘かった。チリ、後半から入った日本人顔のミジャールが1点を入れた後半2分から、シュートが両方とも途絶える。きれいなパス回しを続けて泥臭いサッカーをするスペイン。これは練習じゃないぞ!遠くから来ている観客に失礼じゃないか!落とせない試合といってもホドがある!日本ですら2−1から攻めに出たぞ!とブーイングの境地になる。会場もそうだったようで、ブブゼラが嘲笑のヒューという口笛に変わる。果たして試合終了。翌日のスペイン紙は酷評だったと確信する。ともあれチリもスペインも決勝リーグ出場は決めた。ここは、次の見所を書く事で私の怒りを期待に昇華させよう。チリ。イエローカード多すぎ。次戦エストラダも累積レッドで出場できないようだし気をつけよう。サッカー自体はいいのだから。後半20分出場のオレジャナは168cmのちびっ子だがドリブルが素晴しい。次を見たい。スペイン。イエニスタは復活した。あとはトーレスだ。デルボスケ監督も、レアルを2度の欧州王者に導いたー私が一番好きだった時代のレアルのー監督なのだから、決勝リーグで立て直しを図ってくれると信じつつ。

6月24日 脱皮の瞬間

● デンマークー日本  1−3  ルステンブルグ
FKで前半に2点決めるなんて、誰が予想できただろう。さらに後半1点、それも本田の華麗な左足のアシストを岡崎が押し込んだ。今までなら守るのが精一杯で、さらにどん欲に点を取るなんてことはなかった。守りも時にピンチな状況はあったけれど、全く不安を感じなかった。なぜなら11人全員が今までにない滑らかな動きをしていたから。これは本当に今までの日本代表と同じ人たちなんだろうか。YesでありNo。彼らは次のステージに上昇した。指揮官のどうのこうのではなく、勝手に。機能しないものを捨て、現場で数々の素晴しい試合を見て、どん欲に吸収し、率直に言葉をぶつけあい、脱皮していったのだ。もしかしてこれは日本人が30年ほど前、クルマやオーディオを作る時に発揮した“勤勉”というやつか。本田やら中澤やら長谷部やら川島やら、プレッシャーをエネルギーに変える機能のある奴らがいるのも凄いこと。あれだけ才能が揃っていたのに潰れてしまった2006年代表との大きな違いだ。「(前から中盤は)4枚で指示してたのに、勝手に2枚に変えてしまった選手が偉い。私の指示じゃなく、彼らが動いたんだ」と岡田監督は言う。でも後半29分、あなたが松井を下げて岡崎を入れたことに、選手は「この人はまだ攻めるつもりだ」という意志を感じたし、それが彼らを世界基準に引き上げたのですよ。素敵な試合をありがとう。いろいろ言ってごめんなさい。この試合を見た小学生たちも、脱皮してくれるといい。

6月23日   カペロ先生は元学級委員を許した

● スロヴェニアーイングランド 0−1 ポートエリザベス
イングランドというチームには、かなりの親近感がある。小学校の頃、ルーニーによく似た運動だけがとりえ(ゴメン!)のピュアな悪ガキと、一年中渋面をしてるけどイザとなると頼りになるジェラード似の男の子がいたせいだ。チェルシーのファンでもあるから、学級委員のようなテリーを始終見ていることも影響している。そんなClass of Englandの担任は、イタリアから赴任したカペロ先生だ。先生はお洒落で策士だけど義理と人情に厚いので、間違ったこと、を嫌う。今年の初めチェルシーで同僚のガールフレンドを寝取ってしまった(まさにこの表現がぴったりのケースだった)テリーは、あっけなく代表主将の地位を剥奪された。それが根をひいているかどうかはわからないが二人の仲はぎくしゃくしていたというし、確執が表に出たのが22日の会見。アルジェリアやアメリカ戦でのドローに不満だったテリーは「監督が無策なのがいけない」と公で言ってしまう。でも、ここからがカペロ先生の偉いところ。テリーに謝罪を求めることもなく「次の試合は真骨頂。イングランドの要でありつづけているテリーをはずすなんてことはない」と記者たちにコメントする。
そして真骨頂の23日。後半23分ノヴァコビッチ、デディッチ、ビルサの3回連続スロヴェニア怒濤のシュート攻撃をテリーが足と頭で連続クリアしゴールを守りきった時、このチームは勝つなと確信した。元学級委員が身を挺して禊ぎをした瞬間。おそらくカペロ監督もそう思ったに違いない。だから直後、不調のルーニーにこれ以上得点を期待することを止めて、攻守両方できるJコールを投入した。あとは前半デフォーがとった1点を守りきる、勝つための泥臭いゲームをイングランドのクラスメート全員がやりぬいた。Man of the Matchはこれもよく守ったミルナーだったが、私にはテリー。カペロ先生も同じだったのではなかろうか。
悪ガキルーニーはまだ本調子じゃないが、アルゼンチンのメッシも同じ。この二人の活躍する場所は、決勝リーグに持ち越された。お楽しみは続く。それがW杯。

6月22日   薄笑いと組織の崩壊-Les Bleusから

● フランスー南アフリカ 1−2 ブルームフォンテ−ン
● フランスーメキシコ  0−2 ポロクワネ(17日)

予兆はすでにあった。6月17日フランスは0-2でメキシコに負ける。リベリをトップにシュート、FK、CK、あらゆるボリュームでメキシコを凌駕しつつ何一つ決まらない。
ル・ブルー、青いユニフォームが空回りしていた。アネルカがひっこめられた後半。エルナンデスとブランコにトントンと2点決められてメキシコが勝つ。出来の悪いB級映画を見ているようだった。試合後にマルダが一言「恥ずべき試合ですよ」。その直後、記者から「選手に何と声をかけたのですか」と聞かれたドメネク監督が「いや全然(話していない)」と答え、薄ら笑いをした。その瞬間、ああこのチームはヤバいと感じた。
覚えているだろうか。W杯前に、日本が韓国との親善試合で負けたあと岡田監督が「辞任した方がいいですか、と協会に伺いを立てた」と薄笑いをしながらコメントした、あの時の心地悪さと同じというか。
翌日ドメネクに暴言を吐いたかどでアネルカは強制送還され、スポーツ紙レキップ(私はフランスに行くと必ず読んでいる)は内情を暴露。主将エヴラとコーチの喧嘩、選手全員の練習ボイコット。そして主要選手が出ない22日の南ア戦前半におけるグルクフの一発レッド退場、とフランスはみるみる坂を転げ落ちていった。開催国のプライドをかけてぶつかってくる南アは2点ゲット。止められない。後半にやっとマルダが1点を返し、待望のアンリが交代出場するが、ボールがつながらない。ル・ブルーは一次リーグで、パラパラ火が飛び散る中途半端な花火のように燃え尽きた。
実績が出せない、でも協会の要請でずるずると代表監督を続けてしまったドメネクに率いられたまま、一勝もできなかったフランス。果たして日本も同じ道を辿ったかもしれない。幸いなことに、日本は初戦に勝つことができ、流れが変わった。どこが分かれ道だったのだろう。W杯開幕前、トウーリオと長谷部の発案で選手だけで数時間話し合ったこと、初戦の時これまたトウーリオの発案で君が代を肩を組んで全員がうたったこと。
そう、選手が自主的にまとまっていった流れ。単純すぎるくらい単純。開幕10日前にたまたまレキップでアネルカのコメントを見た。「フランス国民はドメネクを悪くいうけど、彼が全ての原因じゃない。確かに彼は迷うけど。それより選手がいまだバラバラなんだ。若手とベテランがわかりあって協力しないと、勝てない」その意味を今になって噛みしめている。24日はフランスの分まで頑張ってほしい。サムライブルー。
あ、アンリについては稿をあらためて。

6月21日 ちびっこと3兄弟

● スペインーホンジュラス  2−0 ヨハネスブルグ
2点目も決めたビジャをみんながハグするが、ビジャちっちゃい。175cm。ボールを拾って拾ってシャープなパスを出し続けたシャビは170、地味で忘れられがちな3トップの一人ナバスは172、後半トーレスと交代したマタ174cm。自称無敵艦隊スペインの機動力は意外にちびっ子が担っている。この試合がスペインのW杯初勝利。上昇気流にのってほしいが見通しは甘くない。決めるべきPKをはずしたビジャには一抹の不安を感じるし、トーレスが歯車がずれている。次に戦うチリは強いぞ。下馬評では優勝候補だったスペインが16強に残れるかは、イニエスタの復活にかかっている。さてお気の毒なホンジュラスから一ついい話を。代表にパラシオス家の3兄弟がいる。W杯に3兄弟同時参加は史上初らしい。トットナムでプレイする三男ウィルソンがレギュラー。次男のジュリーは途中出場。末っ子のジョニーはベンチにちんまり座っていた。長男は何をしているのだろうなどと女性セブンのようなことを思ってしまった。

6月21日 チョンテセには因縁が見えた

● ポルトガルー北朝鮮 7−0 ケープタウン
試合後にチョンテセ、君は「66年以来の因縁だけど(当時を)超えることはできなかった」と淡々と語った。そう1966年のW杯で君の国はポルトガルと戦っている。しかも3点リードしていたのに、エウゼビオが怒濤の4点を叩き出し最後は5ー3でポルトガルが逆転勝利、北朝鮮の夢はベスト8で終わったという歴史。なんという因縁だろう。そして44年後に神はまた君の国を痛めつけた。メイレレス、シマオ、アルメイダ、ティアゴ、リエジソン、そしてロナウドの6人から7点くらってしまう。無理もない。前のブラジル戦を見てポルトガルは君を研究し、君さえブロックすれば楽勝ということを知った。そしてバレンシアの鉄壁DFミゲウがその任務を完璧に遂行しただけだ。でもね、途中ホンヨンジョがロナウドを吹っ飛ばした時は、世界中の誰もが心の中で「やるじゃん!」と思ったんじゃないかな。きっとこれは神様から、君の国の人へのサービスショットだったんだよ。

* 7月19日追加情報
北朝鮮でブラジル戦を見ていたキム・ジョンウン(ジョンイルの3男)が「ブラジ
ル戦のような守備ばっかりのサッカーは止めれ!」と指示を出したため、この日は守りのサッカーから攻めへ。故にポルトガルの怒濤の攻撃、7点を許す。将軍様(Jr)のコトバは絶対なのである。あまりの惨劇に腹心が「試合の中継をストップしましょうか」とうかがいをたてたが、そのままでよいと言った。

6月20日  パラはダークホース

● スロヴァキアーパラグアイ  0−2 ブルームフォンテ−ン
11人中5人の選手が頭をつるりと丸めている白ユニフォームの爽やかなスロヴァキア。黒髪ロン毛(古い)系で濃いオーラをふりまくパラグアイと対照的なビジュアルだ。ゲームも見た目印象に支配された。スロヴァキアのゲームは、細身のMFワイスを中心に組み立てられる。他に手がない。それに対してパラは、先制点をとったちょい悪系べラや、ユニークなヒールパスを披露するバリオス(ドルトムントで活躍中)、運動量の落ちないバルデス(こいつもドルトムント)そしてサンタクルスの4人組カルテットが図柄を自在に描いていく。サンタクルスは好みのタイプだなと思いつつ、自分の2002年と2006年の記録ノートを見たらハートマークをつけていた。人間の好みはそう変わらないらしい。眼鏡が渋いマルティーノ監督は、後半サンタクルスを残して件の3人を交代させた。温存。次のニュージーランド戦で怒涛の勝利を勝ち取りF組一位通過か。あながち誇張とは言い切れない凄さを感じる。

6月19日 FWは背番号3

● ガーナーオーストラリア 1−1 ルステンブルグ
やっぱりガーナはギャンのチームだ。よくアシストをする。キューウェルのハンドからもぎ取ったPKもちゃんと決めた。思えば2006年のW杯でガーナ初のゴールを決めたのもギャン(拙稿2006年6月17日愛の説教部屋参照)。そつがない優等生。しかし彼自身がゴールを決める機会になると逃すんだな、これが。このゲームも4回。蹴る球がゆるくて決まらない。そういえば2008年のアフリカ杯で彼は決定的好機をはずしまくったため怒ったファンに家族が脅迫されたっけ。ゲームの設計はできる。選手によく声もかける。決定力まで期待するのはないものねだりだろうか。背番号3のFW。24才。勝てる試合だったぞ!ってきっと自分が一番わかってるだろうけど。

6月19日  24日のヒント

● カメルーンーデンマーク 1ー2 プレトリア
エトーの1点。追いかけるデンマークからベントナーとロンメダールの2点。見たい選手の見たい得点が見事に展開される試合だった。全員が動くし、小気味いいクロスやシュートの数々。サッカーの醍醐味がコンパクトに90分に配置された、いい試合。日本時間27:30キックオフだからしょうがないが、こういう飛び出す教科書のようなゲームはサッカー少年たちに見てほしいと切に感じる。さて一次リーグ敗退こそ決まったが、カメルーンはキレがよかった。日本戦では緊張していただけなんだな。その動きを懸命に守ったDFケール、イエロー累積で24日の日本戦出場停止は朗報。ロンメダールが上げ調子にあるのは危険な知らせ。遠藤と大久保、彼のチェックを頼みます。

6月17日 メッシの61回

● アルゼンチンー韓国 4−0 ヨハネスブルグ
2−1で韓国善戦か。そんな予想をたてていた。甘かった。オウンゴールの1点にイグアインのハットトリック。その4点全てに絡んだのはメッシ。メッシは代表試合になると点を取れないと皆はいうけれど、取れないのではなく、自分が取るより若いFWに出す方が確実であることを知ってアシストを選択しているにすぎない。徹底したプロなのだ。実によく走る。昔の北澤豪を彷彿させるが最大の違いは、メッシはボールのハブであること。このゲームのパス数61回。正確。誰も叶わない。彼がドリブルで切り返す前に足首をくるくる返す瞬間が、私は好きだ。試合終了後、マラドーナは全選手にハグをしたが、メッシとだけは肩を組んで廊下を去っていった。何をしゃべっていたのだろう。誰か教えてくれないかな。

6月15日  暗さは伝染するから。

● ブラジルー北朝鮮 2−1 ヨハネスブルグ
後半10分マイコンが右サイド鋭角より、ようやく先制の1点。その後同僚たちと抱き合って喜ぶマイコンの目に涙が見えた。1点だよ!FIFAランキング1位のブラジルが、今回の出場国最下位の北朝鮮から1点をとっただけで涙なのだ。それほど北朝鮮は、ブラジルにとって戦いにくい相手だった。何せチョンテセ以外の10人が下がってひたすら守る。ボールが遅い。低い。重い。映像倍速してやっといつもの速度。ロビーニョ=カカのラインをカットし続ける。ファウルしないからFKをとれない。後半27分にエラーノが2点目を流しこんだところからやっと皆の顔がほころんできた。仏像のように無表情だったドウンガも声を出し始めた。北朝鮮、本当によくやったと思うが、こういうサッカーは止めてほしいなあ。つまらないから皆が暗くなる。ブブゼラすら静かになったほどだ。カメラが無言のドウンガを何度も映すから、彼が着ていた紺色に白ボタンのPコートが気になってしょうがなかった。

6月15日 ビギナーズラック

● ニュージーランドースロバキア 1−1 ルステンブルク
なにせ23人中アマチュア選手が2人もいるニュージーランドとほぼ全選手がヨーロッパリーグに所属するスロバキア。後者の圧勝と誰もが思ったはずだ。ふたを開けてみると、ロングボールを多用するキーウイとチマチマ攻めるスロバキア、前半は双方決め手を作れず終了。後半5分にビテクが緩いヘディングでスロバキア先制。そのまま惰性で終わるように見えたが、ラスト2分からキーウイは突然ジタバタしだす。そしてロスタイム、5月に代表となった21才リードがヘディングを決めて1ー1でゲーム終了。キーウイの、このみんなの期待を(いい意味で)裏切るドタバタ感はなんなのだろう。ヘディングをする選手は全くゴールを見ていないしね。お気楽な初心者はグループFを混乱させると見た。一日前のイタリアーパラグアイも1−1のドローでお粗末な内容だった。全員勝ち点1のレースから頭一つ抜けだすのはどのチームだろうか。。

6月14日  松井の努力と運

● 日本ーカメルーン 1−0 ブルームフォンテーン
この人こんなに胸板厚かったっけ?公式データ175cm, 64kg。細身で定評のある松井を久々に画面越しに見た第一印象である。3月のバーレーン戦を最後に彼は戦線からはずれていた。代表に選ばれてもピッチに本当に立てるか内心穏やかではなかったはず。2004年にルマンへ渡り、以来フランスリーグでプレイしてきた。所属するグルノーブルは今期リーグ最下位だった。守りを主にボールにしがみつき好機がきたら速攻という泥臭いスタイルを余儀なくされてきた彼にとって、今日のような試合は十八番だったは ず。もともとフランスリーグはアフリカ勢が多く、松井が絡んだヌクル、エクビア、マクーンはフランスでプレイする仲間たち。球際の動きもよかった。不慣れな右サイドから本田へのセンタリングは自主的に何度も練習していたという。左足であげたクロスが本田にぴしゃりと届いてよかった。そして岡田監督が松井を先発にしてくれて、本当によかった。

6月14日 10分だけ本気

● オランダーデンマーク 2−0  ヨハネスブルグ
29分、adidas新モデル・黒地に黄線三本のPREDATOR_XX-TRX SGを履いた2本の足がお互いをググッと削り合う。どアップの、まるでCMのようなカットが前半を象徴していた。 オランダはボールを支配こそすれどもデンマークに見事はじかれ50:50な感じ。このままだと退屈で寝てしまうかもしれないと思いきや、突然オランダのスイッチが入る。引き金になったのは、後半32分にファンペルシと交代で入った若造アフェライだ。あどけない顔をしているが走る走る、ボールを引き寄せゲームをメークしはじめた。40分、スナイデルのスルーパスを黒豹エリアがシュートするがポールにはじかれる。そこに詰めたカイトがスパッと2点目を押し込んだところで落着。ラスト10分でゲームはできる。
ロッベンはベンチ。オレンジ軍団は堂々獣である。

6月13日  芝と職人さん。

● セルビアーガーナ 0−1(PK) プレトリア
このスタジアムは芝がいい。元々95年のラグビーW杯でも使われた歴史(C・イーストウッド監督『インビクタス』の舞台だ)もあり、常に芝職人がいい状態を保っている。 ここでの初試合、前半は膠着状態だったが、後半20分から急にガーナにドライブがかかる。28分、21才の指令塔アサモアと交代してinしたアッピアがいいオーラを放ち出す。 アッピアは16才で代表デビュー、その後ウディネーゼ、パルマ、ブレシア、ユヴェントス、トルコリーグを経て今はボローニャに所属する29才の職人さんだ。20~23才が主体のガーナでは高齢の部類。今年1月のアフリカ杯ではアサモアに奪われた10番を、W杯という舞台では再びつけている。39分、セルビアのハンドからPKを奪った流れも彼の細かいかく乱に起因する。ガーナのこういう粋な旧新交代を指示したのがライエバツ。セルビア人の監督というのも面白い。

6月11日、13日 本番という練習試合、2つ。

● ウルグアイーフランス 0−0 ケープタウン
なんと退屈な試合をするチームか、フランスは。2006年にイタリアと優勝を争った国。当時のメンバーが殆ど残っているというのに。いやドメネク監督含めて何も変わっていないから、退屈なのか。後半アネルカと交代で入ったアンリのFKがはずれたのもがっかりの一つ。お楽しみはこれからだと自分に言い聞かせたい。唯一日本人主審で身長180cm、西村さんがカッコよかったのは救いだった。ただイエロー7枚ははりきり過ぎか。

● アルジェリアースロヴェニア 0−1 ポロクワネ
双方とも予選失点が4点。堅いチーム同士の戦いというのは、こんなものかもしれない。ヨーロッパとアフリカという地理上の違いはあるものの、選手の持つ雰囲気は似ているし、動くスピードも同期していた。均衡というコトバの意味を噛み締める。各々24年ぶり、8年ぶりのW杯出場に緊張している選手たちに喝を入れるべく、両監督とも3人の交代枠を使い切った。コレンが79分で点を入れたのは、グループC(他はイングランドとアメリカ)を面白くした。前日失態をやらかしたイングランドGKのグリーンは、どんな気持ちで見ていただろう。アルジェリア人を両親に持つジダンが、観客席で切ない目をしていたのも妙な余韻を残した。ジダンは黒いシャツが似合う。

6月12日 3Gアルゼンチン

● アルゼンチンーナイジェリア 1−0 ヨハネスブルグ
2008年の北京五輪決勝もこのカードだった。違いがあるなら○ナイジェリアGKエニェアマは鉄の守護神になった。彼でなければアルゼンチンはあと5点穫れた○ディマリアのスピード2割増し(筆者比)。ベンフィカ優勝の原動力だったわけだ○メッシ←→ベロン、エインセ←→イグアインのホットラインが機能している○アルゼンチンは今期屈指のイケメンチームかも。テベスやサミュエルといった伝統顔は少数派になった。ベンチを見て確信。ま、顔の話はさておき、初戦から100%で来たナイジェリアと30%で試運転中のアルゼンチンの力量は点数にこそ反映されなかったが歴然とした。Man of the matchは当然メッシだが、17番の全方面プレイヤー、グティエレスも注目してほしい。

前回好評だった本日のビールに変わって(男性の皆さんすみません)
本日のイケメン:ナイジェリア11番オデムウィンギ。モスクワでプレイしているせいかちょっと色白。

6月11日 幸福のカラフルなマスゲーム。

● 開会式 ヨハネスブルグ
 
目に耳に新鮮なマスゲームを見た。縞々のコマみたいな衣装を着たアフリカ女性が270人、白い歯を見せてくるくる踊っている。何色も脱皮して最後は一色のマントをまとって退場。続いて120人の男女ダンサーが色とりどりのチュチュ(バレエの時の短いスカートですね)を腰につけて踊りだす。中央には手作りのバオバブの木。インド音楽とレゲエを足して2で割ったような民族音楽は人の心を高揚させる。褐色の肌はきれいだ。最後は280人の若者が今大会のちょいと複雑なLogoマークの人文字を作って終わった。 中心では歌手が何人も変わり、終始ノリのいい南ア音楽がかかっていた。まるで青空の下に出来たクラブ(後半にアクセントだよ)に招かれた気分。現場にいたら間違いなく踊ってる。ちなみにダンサーの白人比率は3割程。「白人至上主義が黒人優先主義に転換してはならない」1991年黒人解放宣言の際にマンデラ元大統領はこう訴えた。そして2010年。白人が整備したインフラ=会場でのびのび楽しんでいるのは黒人たち。いい塩梅で実現しているのかもしれない。 残念なことに、11日朝未明にひ孫を交通事故で亡くしたためマンデラの出席は叶わなかったが、彼の理念はきちんと息吹いている。実は開会式より20時間遅れでこの原稿を書いているにも関わらず、 いささかも印象は薄れていない。30分弱の素敵なショーだった。北京五輪は5時間だったか。





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