■ レストラン・めし屋
知識のひけらかし合いはもういい
楽しく飯を食わせろ (1)
新さん レストランも、最近勘違いしている客が多くて困るよね。高くておいしいんだったら当たり前だよ。安くておいしいからレストランなんだって。
だいたいレストランは慇懃無礼が多いよな。知識のひけらかし合いしないといけないような。「それはもういいよ、俺は疲れたよ。そんなことをしに行ってるんじゃないんだよ。飯を食べたいんだから、勘弁してよ」という感じ。
運営者 メニューを見ながら、「どうしてみんなそんな細かいことを知っているの」といつも思うんですよ、僕。
新さん 外国に行ったら、給仕してくれる人に解説してもらえばいいだけであって、何も客が知っている必要はないよね。
雅子さま ワインなんて任せちゃう方が賢明ですよね。
新さん いろんなところでご飯を食べて、一番正解だったなと思うのは、パリの一つ星の小さなレストランに行って、「予算はこのくらいです、ワインはその三分一くらいの値段で、その料理に合ったものを出してください」と、ゲタを預けちゃったわけよ。そうすると、任せられちゃったからフルコースをもう必死で作るわけ。
「肉と魚だけ選んでくれ」と言うから、「じゃ僕は肉で妻は魚ね」、ということだけ注文して。そうすると、まずシェフがわれわれの顔を見に来るよ。「いったいどんな顔してる奴なんだろう」と。
「おう、こいつかあ」と。それで厨房に帰ってから、うんうん唸って考える、そういう意味では嫌な客かもしれない。そしてワインも、「これが合うと思うんですけど」なんて言って持ってくるよ。
これ、考えてみると、主客が反対になってるんだよ。
雅子さま 結構店も真剣になりますよね。
新さん そうそう、預けられちゃったわけだから、向こうとしては真剣にやらざるを得ない。ホントにうまかったよ。何かの腎臓が出てきたけど、とろとろでおいしかった。それとデザートが最高に旨かったね。たぶん値段以上のものが出てきたと思う。そういうのが一番賢かったなぁ。
だいたいミシュランの3つ星というのはこけおどしだね。2つ星はまあ許せる範囲で、新進的ですごくリーズナブルな1つ星が一番好きなんだけれど。
雅子さま 1つ星はオリジナリティーがある、だけど表通りにはなくてちょっと裏に入ったところにあるんです。
特に16、17区にある1つ星あたりが狙い目でしょう。パリでも中心部のレストランは「まあそんなもんか」という感じですが、周辺部のそのあたりだと住んでる人がうるさい人が多いから、同じ1つ星のレストランでもクオリティーが高いんだと思う。
新さん それで最後に帰るときにシェフが出てきて握手したりなんかして、本当においしかったときはまあ顔つきで向こうもわかるよね。
雅子さま パリでもイタリアでもそうなんだけど、レストランで食事をするのは、本当に楽しいですよね、あれは何なんだろうと思う。東京では味わえないことですよ。
新さん ミラノで入ったトラットリアのオヤジなんか、料理を持ってくるたびに「マンマミーア」と手を広げながら持ってくるもんね。
雅子さま ちょっとでも「おいしい」なんて言おうものならもう大変よ。「お店から」とか言っていろんなもの持ってきてくれるし、ああいうのはやっぱり嬉しいですよね。
運営者 幸せになれますよね。ミラノのリストランテかなんかで1人で食事していて、隣の席で家族で誕生日を祝ったりしていて、歌を歌ってケーキを切ったりしているんですよ。「ゴッドファーザーでやってたのと同じことをやっているな」と思って、こっちも一緒に楽しくなりますよね。
雅子さま 家族で一緒に来るというのはよく見る光景ですね。