爆笑! 四酔人サイト問答
新しいメディアは生まれるか(3)
かんべえ 新しいメディアができてコンテンツの革命が起こったときに、革新者は必ずしもその時点では評価されないでしょう。でも、例えば、2050年くらいに日本の戦後のマンガ文化が教科書に載るとすると、必ず載るのは手塚治虫。もし3人載るならば、あとは藤子不二雄、長谷川町子あたりになるでしょうね。そうなってくると、今われわれが読んでいる漫画なんてゴミ扱いですよ。一番の天才というのは最初に出てしまっているはずです。そういうのだけが歴史に残る。
田中 それは最初に雛形を作ったやつが残るということですね。物語というのは基本的に単純明快、根幹に根ざしているものが一番強いんです。今、夏目漱石が「坊ちゃん」書いて私の所に持ち込んだら、速攻でボツですよ。
師匠 最初につくり、なおかつフィロソフィーを持っていたやつが強いんだよ。
田中 でもやっぱりそれは一番最初の人が作りやすいですよね。時間がたてばたつほど細分化されていってむつかしくなる。
師匠 でもトトロの宮崎駿なんか面白いじゃないって。あれは残らないの?
かんべえ いいえ、あれはマンガじゃなくてアニメーションの天才先駆者なんです。
田中 そういうのがネットで出てくるのはこれからだと思いますよ。
運営者 その時に、ネットの世界で出ててきたコンテンツの天才が手塚治虫のような名誉を獲得するかというと、そうではないんじゃないかな。
ネット上での価値の作り方は、例えば今度はテキストと動画をどのように組み合わせるかというような要素を処理していかなければならないわけですがあって、そのイノベーションの方法というのは手塚治虫のような天才が一人で作ったようなやり方ではなく、おそらく多くの人間が共同して作っていくことになるだろうと思うんです。
かんべえ そうかな。
師匠 共同ではできないと思う。
運営者 それが、ネットワークの機能なんです。
師匠 違う違う。お前は間違っている。天才は一人なんだよ。
田中 Windowsはビルゲイツ一人がつくったわけじゃないけれど、結局ビルゲイツ一人に落とし込んで理解したいわけじゃないですか。物語を作る方としては。
運営者 マネジメントの世界でいうと、80年代の前半まではリーダーシップが重視されていて、チームワークという能力にはほとんど光が当てられていなかったんです。ところが今では……。
師匠 じゃあこういう言い方をしよう。ニュートンはなぜ生まれたかというとそれ以前の学者の蓄積があったから。そういう蓄積の体系は必ずあるんだよ。そういう意味ではコー・オペレーションというのは必ずあるわけだ。でもね、それで何かブレークするというのは無理なんだよ。
運営者 アメリカでの研究で、80年代の前半にマネージャーにインタビューして、「あなたは自分の職業の業務の遂行に必要な能力の何%持っていますか?」と聞いたところみんな、ほとんどの人が「80%持っている」と答えたそうです。ところが最近では、それが15%にまで下がっている。つまり自分一人では何もできないということなんですね。
師匠 よし、君が言っていることと、俺たちが言っていることとはあまり離れていないということがわかった。
運営者 その15%を融合した人間が、一人の人格になるかどうかの問題なんですよね。
師匠 100人のうち個人として優秀な人間はやっぱり一人しかいないんだよ。
運営者 それは融合させる能力をもっている人ということかと思うんです。
かんべえ 世間の人はやはり何か大きな仕事をした人を一人の人として落とし込みたがると思いますよ。むしろネットワーク社会の方が、その度合いは高いんじゃないかしら。90年代になってからカリスマ信仰が激しくなってきたと思います。盛田昭夫さんですら、今の出井さんほどは信仰されてなかったですよ。
ジャック・ウェルチだって、今となっては明らかに神格化されていますよね。
師匠 やっぱり人の思考はそんなに分散型にはならないよね。だから信仰に近くなっちゃうって。
運営者 ただそこを神格化してはならないんですけどね。物事は論理的に考えるべきだし。
師匠 だってそこをマスコミが神格化してるじゃない。
運営者 そこには批判的な目を向けなければならないでしょう。
僕は手塚治虫を神格化するのはよくないことだと思うんです。
師匠 でもみんな神格化したがるんだよ。ザインとゾルレンは違うんだよ。
運営者 それはしかし、インテリのやることではない。
師匠 マスコミはマスを対象にしているだろう。だからシンボリックになるんだよ。
【ご注意】 この座談は2001年に行ったものです。内容が古くなっているカ所がある可能性があることをお断り申し上げておきます。