麻倉怜士
2000.5.3
私の新しい本についてご紹介片々、ソニーのネットワーク戦略について報告しよう。本は『ソニーの野望<デジタル・ネットワーク制覇を狙う!>』(IDGジャパン、4月20日発売、定価1800円)がそれ。総368ページの書き下ろしである。私のソニーの本としては、2冊目である。初めは98年秋の「ソニーの革命児」。これはプレイステーションのことを書いたものだ。今回の「ソニーの野望」は、デジタルAVを突破口にネットワーク構築に熱中するソニーを書いた。
ソニーでネットワークのことが、声高に語られるようになったのは、そんなに旧い話ではない。むしろ最近のことといっていい。ところが、ソニーは変身が速い。次に狙いを定めるのは「ネットワークでつなぐ」ことであると目標を決めたら、驚くほどの速いスピードで、自らを「ネットワーク・エンタープライズ」に変えつつある。
世界的にデジタル家電が話題になり、AV製品やパソコンのネットワーク化が叫ばれているが、いまやその構想を具体的なイメージを持って雄弁に語れるのは、世界広しといえどもソニーが随一ではないか。
中でも私の問題意識にあったのは、共通化、平準化がすすむデジタル化の中にあって、ソニー的なものづくりがどのように変わっていくのか、また、変わらないのか。デジタル・ネットワークという新しい環境の中で、どのようなものづくり、サービス開発、プラットフォーム開発を行うのかということだった。それは例えば、こういうことである。
--なぜソニーは最近になって、熱心に「つなぐ」を叫び出したのか?
--ilink、メモリースティックという「つなぎのインフラストラクチャー」は、どのようにして考案されたのか?
--ソニー流のホームネットワークのつなぎ方には、どんな「ソニー的な」特徴があるのか?
--ソニーは放送、インターネットのプラットフォームをとのようにつくりあげようとしているのか?
--ソニーが開発したOS、ソフトウェア技術、ネットワーク技術はどのようなもので、それはいかにに応用されるのか?
--ソニーは、差別化の難しいデジタル製品でいかに独自の魅力を発揮しようとしているのか?
--どのような人材がデジタル・ネットワークを構築しているのか?
--「ネットワーク・カンパニー」に組織を再編成した目論見とは?
--プレイステーション2をいかにネットワーク端末として展開するのか?
取材に当たって私は現場の動きを伝えることに、こだわった。ソニーの話題は最高のマスコミマターであり、出井伸之社長を初めとする首脳部の声は良く伝えられているが、実際にものづくりを行い、ソフトウェアを開発している現場の発想、仕事はなかなか表に出てこない。しかし、ソニーの強さを本当に支えているのは彼らの発想であり、技術力であり、企画力だ。それはデジタル・ネットワークの技術展開、商品展開でも当てはまることだろう。
ソニーは、いまあらゆる分野に手を染め、貪欲なまでに自身の勢力を拡大しようとしているように見えるが、その<思い>は比較的、単純である。それは、この3月に2000年度経営方針の出井社長の発言に端的に現れている。