『「空気」の研究』再発見
インタビュアー 飯坂彰啓
運営者 新作の『新日本人』なんですけどね、原稿自体は去年の年末に書き上げているわけですが、編集者の意向を入れて7月末までにまた手直しをしたんですよ。
その原稿直しが終わった後で、飯坂さんに教えてもらった本を、何冊か読みました。
その中で山本七平の『「空気」の研究』を、恥ずかしいんですが初めて読んだんです。
この本、すごく有名な本ですよね。しかし「空気の研究」という言葉をGoogleで引いてみると330件しかないんです。多い方ではありません。しかし『「空気」の研究』という本を山本七平が書いたということは、常識の範囲内のことですよね。
飯坂 そうですね。ただ「あたりまえの研究」とか「派閥の研究」とか似たようなタイトルで中身はエッセイの寄せ集め本っていうのがたくさん出ていて、印象が希薄になってしまっているかもしれないですけど。
運営者 「とにかく日本人は、まわりの空気に影響されやすい傾向があるよねぇ」というふうに、『「空気」の研究』という言葉は理解されているようですな。
それで、僕はこの本を読んでみてすごく驚きましたね。われわれがこれまで2年間話し合ってきた旧日本人の意識や行動について、山本七平はすでに25年前にこの本の中できちんと分析して書いているんです。構造化してはいないのですが。
飯坂 その構想の原点は、おそらく太平洋戦争中の『私の中の日本軍』でしょう。だからもう既に60年も前の話がベースなんです。
運営者 会田雄次さんなんかもそうだと思うけど、戦争という極限状態の中で自分の思想を錬っていった人というは少なくないと思うんです。
それで、『「空気」の研究』という言葉だけが有名ですけれど、この本についてのみんなの理解は、「日本人は周りの空気に影響されやすい民族だ」、というところにとどまっています。
でも、「空気に影響されやすい」ということは、この本に描かれている内容の単なる入口にしか過ぎないんです。
飯坂 結局、ちょっとものが分かった人でも、「うんうんそうなんだよね」、というところの理解で終っちゃってるわけですね。
運営者 そうです。山本七平は、「日本人は周りの空気に影響されやすい」というところから考えていって、ほぼわれわれの認識と同じように、「旧日本人というのはこのような考え方をする」という意識の傾向と構造についての認識に到達しているわけなんです。
ところが、この本に言及する人はそこには触れていない。むしろあえてそれを無視しているようにすら私には思います。われわれの間では、旧日本人の考え方はもうすでに分かっているわけですが、旧日本人がこの『「空気」の研究』を読んだとしても、山本七平が分析した旧日本人の意識構造については、ちゃんと理解できないと思いますね。