「天皇制とは空気の支配である」
インタビュアー 飯坂彰啓
飯坂 ええ、そうでしょうね。自分の事を言われているとは、読者にはわからないでしょう。
運営者 つまり山本七平は、当時の日本人の考え方を外部から見ていたわけです。
山本七平から見ると、「旧日本人の考え方はこういうものだよね」という分析が、かなりしっかりこの『空気の研究』の中に書かれている。
で、それがどのように書かれているかというと、私家版として要約しますと、こんな感じですよね。
「天皇制とは空気の支配である」
そこでは「自己の意思の否定」「自己の行為への責任の否定」があり、「人間は一定の状況に対して、平等かつ等質に反応するものと規定してしまう」
人間の側を無理矢理状況に合わせるために、伸縮自在の「状況論理」があり、状況自体を変えて認識すればよい。その支点として「一君万民」の天皇が存在する。「各人は対象に対して平等の立場に立たねばならない」。天皇には「極限の無謬性と永遠性」が保証されなければならない。
この天皇の意志だけが絶対視され、人民は「滅私奉公」だから、「聖意を体して……」というかたちで「空気」ができてしまう。「事実を相互に隠し合うことの中に真実がある」
この秩序を維持しようとするならすべての集団は「閉鎖集団となり、そして全日本をこの秩序でおおうつもりなら、必然的に鎖国とならざるを得ない」
こうした日本的原理主義の基盤は「教義(ドグマ)の絶対化ではなく、むしろ家族的相互主義に基づく自己および自己所属集団の絶対化ともいえるものであろう」
飯坂 うわー、なるほど。われわれがこれまで話してきたこと、そのまんまですね。
運営者 すごい慧眼ですよねー。これをもうすでに25年前に彼は分析していたんです。
まあユダヤ人になりきって「日本人とユダヤ人」が書けるくらいの人ですから、日本人をまったく外から見ていたと思うんです。その視点は、人間洞察を深めれば誰にでも可能なものではあるのですが、持っている人は極端に少ない。
飯坂 軍隊においても、各師団において師団長や連隊長を頂点とするミニ天皇制、すなわち家族制が敷かれていたということですね。「他の師団のことは全く考えずに、自分たちの中だけでやっていきましょう」と。それとか、戦略的に意味はないけど、師団長が勲章をもらうためにやった戦闘がいっぱいあったと聞いています。
運営者 部分最適ではあるのですが、組織としては、「とにかくみんなでいがみ合わずに仲良くやっていきましょう」ということです。家族的なんでしょうね。だから組織の中だけはうまくいくんだけれど、その論理を社会全体にまで敷衍して行くと、決して全体最適を実現するものではないということですか。