リビングにて
おやじ 接待ゴルフから帰ってみると、息子がリビングでテレビゲームをしながら寝転がっている。ただの引きこもりじゃないか。会社に入って2年も経つのに学生気分が抜けてない。もうちょっとシャキッとしたらどうなんだ?
若造 何言ってるんだよ、ちょっと頭を休めてるだけだよ。これやってるとアイデアが浮かんでくることも多いしね。
だいたい自分の時間をどう使おうとぼくの勝手さ。おやじみたいに、うまくもないゴルフでせっかくの休日を台無しにされるなんてぼくには考えられないよ。だいいちゴルフで景品もらってきたことないじゃないか。
おやじ うぐっ。それを言われると弱いんだが、しかしゴルフは立派な仕事なんだぞ。だいたいお前は、仕事の大変さというものがちっともわかってないんじゃないのか。オレは休みの日にも会社のために一生懸命働いているんだぞ。
若造 それっておかしいよ、会社のために働くんじゃなくて、お客さんのため、株主のため、そして自分のために働くんじゃないの? 会社のために働いていてるんだったら、会社がなくなったらどうするんだよ。
おやじ なに言ってるんだお前、会社があるからわが家との生活が成り立ってきたんじゃないか。社宅に住んで、会社の運動会に参加して、会社がすべての面倒をみてくれたからこそ、お前も一人前の人間になれたんだぞ。会社はオレを認めてくれた。だからオレは、自分の会社を誇りに思っているし、信じてるんだ。会社には感謝しなけりゃな。
若造 でも、五年前に子会社に出向になっちゃって、そのまま転籍されちゃったんじゃないか。
おやじ それでもやっぱり、会社はわれわれのことを守ってくれていると思うぞ。何かがあったときにやっぱり頼れるのは会社だよ。オレたちにできないことでも、なんとかしてくれるはずだ。オフィスでは地震に備えて食料備蓄だってやってくれてるし。やっぱり会社が一番だよな。お前みたいに、会社のことを信じていない会社不信の塊のような人間は、この先いったいどうやって生きていくつもりなんだ。オレはホントに心配だぞ。
若造 いいよなあ、そんなに単純に会社に忠誠心を持つことができて。オレは悪いけど、会社のことなんか信じてないよ。自分が今いる会社に一生いられるとは思えないもん。世の中の流れをみると、とてもうちの会社が世の中の荒波を乗り切って生き残れるとは思えない。一目瞭然だよ、そもそも儲かってないんだから。今のやり方を続けていて、黒字に転換するとも思えないし。そこのところが信用できなきゃ、ついて行く気にはなれないよね。
おやじ だけどそれじゃ、まるで会社を辞めるということを前提にしてるみたいな言い方だな。
若造 そうだよ。最初から辞めるつもりで会社に入ったんだから。次は勉強をやり直して、外資系企業に行くと決めてるもんね。
おやじ まったくあきれたやつだな。
若造 だから、おやじの時代は「就職」じゃなくて、「就社」だったんだよ。会社に入ったら、その後は何をしていても安心というわけさ。だけど今はもうそういう時代じゃないよ。「自分の身は自分で守る、会社はどーせ何もしてくれない」とぼくらの世代はみんな思ってるよ。
おやじ 嘆かわしいことだな。これだから日本はだめになっていくんだ。