旧日本人の仕事観■
市場軽視
株式会社、資本主義、市場での競争という概念を敢えて理解しようとしない
旧日本人は、市場主義や自由競争という言葉は知っていても、「自分の埒外のものである」と薄ぼんやりと認識している程度だろう。「自分がその主戦場で戦っている」とは実感していない。
仲間主義的な旧日本型組織では、安定的な取引関係を肯定し、他社からより安い金額が提示されたとしても安易に心が動かない。自分がこれまで取引してきた相手との関係を見直すこと自体に抵抗を感じる人が少なくない。旧日本人は「損得勘定」よりも取引関係の安定性(相互依存性)を重視する結果である。しかも、何の義理もない取引先であっても、一度関係を結ぶと他よりそこを優先しようという驚異的な親和性を見せる人が少なくない。
バックマージン、袖の下などの利益供与は当たり前である。サプライヤーにしてみれば、担当者と癒着すれば単価も納期もごまかせるのなら安いものだ。旧日本型組織においては、仲間主義、身内主義といったまったく不合理な組織論理によって、経済合理性は簡単に歪曲されてしまう。まったく唾棄すべき話だが、これは多くの企業で現実的に起こっていることであり、これも改革を妨げる数ある文化的要因のうちの一つとなっている。
このような癒着構造や、私益に基づいた歪んだ判断にはなんの正当性もないことをはっきり認識しなければならない。事実が白日の下に晒され、多くの人が不正を知ったときに、こうした構造は是正されるだろう。その是正の方向は、人的なつながりを徹底的に排除し、一番安くて便利なところからものを買う、そのために最も安いものが集まっているマーケットにアクセスする、もしくは一番賢いのは自分でマーケットを作ってしまう(孫正義という経営者は、ナスダックジャパンという株式市場すら自分で作ってしまった)という、市場主義的な方向性以外には考えられない。これはあらゆる取引について言えることだ。
ネットワーカーは、そうした市場主義的な発想を持っている。ネットワーカーとは「情報の交差点にいる人のこと」だ。市場主義とネットワークの考え方はぴったりと一致している。
そして市場では、公正な競争が行われていなければまったく意味がない。市場競争の考え方は、オープンで自立した人間の集まっている社会には、必ず必要とされるものである。自立した人間が、他人と価値を交換するためには、市場の存在は不可欠なのだ。
とはいえ今のところ、このような考え方は、旧日本型の価値観を持つ人間からは、敵視すべき思想ですらある。