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「新日本人/旧日本人」モデル


旧日本人のビジネス・マインド■

4.社外に目を配らないので、危機意識を持たない

変わりたくないので、変化から目をそらし続ける
大局観がない。周囲五メートルに視野を限定し、あえて現実を見つめようとしない



 カイシャの中で全てが完結する極小世界観を持つ旧日本人の場合、社外では何が起ころうとも問題ではない。見たくないものは見えないし目に入ってこない。事実としてこの世に起こっていない。無いものとすることができる。


 ITの普及や企業間連合の模索、新しい会計基準の採用といった、確実に競争のルールを変革するであろう環境変化ですら、実際に自分の立場を脅かすようになるまでは、現実感を持って捉えられない。もともと「すべての変化はマイナスである」と考えているので、見たくない革新には目をふさいで「見ざる言わざる聞かざる」を決め込もうとする。そうして立派な「ユデガエル社員」、砂の中に頭だけ突っ込んで敵をやり過ごそうとする「ダチョウ社員」ができあがる。

 外界に注意を向けていない旧日本人には、危機を前もって察知し、十分練った回避策を採る知恵も時間的余裕もない。危機が目前に迫った時になっておろおろするだけで、そのときには選択肢が極限されているので、真正面からクラッシュして決定的なダメージを食らってしまうことも少なくない。
 箭内氏は長銀の部門別収益管理について、「私が在籍した大企業担当の融資部は赤字なのか黒字なのか最後までわからなかった」と吐露している。同様に日産の役員も、「誰も会社全体がどうなっているのかということには気づかなかった」と『ルネサンス』の中でコメントしている。自分たちがどこに向かっていて、どのような状態にあるのかという「大局観」がないのだ。それは自分の利害の及ぶ範囲、平社員であればせいぜい半径五メートル(の範囲の中で同僚と結婚する若手社員が多い)、課長なら課内、部長なら部内、工場長なら工場内のことしか把握せず、それより広いことは「他人様」にお任せするのが礼儀であり謙譲の美徳だと思っているからなのだ。


 ゴーン氏はこうした問題について、「部門と部門、職務と職務のつながりが、見事に断ち切られていた。各部門ごとに社員は、自分たちは目標を達成しているとそれぞれに信じていた。これは日産に限らず、世界中の危機に瀕する企業に共通して見られる問題である」「マネジメント側に問題を見極め、明確かつ妥当な優先順位を確立する能力がなかったことを物語っていた」「従業員とマネジメントの間に双方向のコミュニケーションがほとんど存在しなかった」と喝破し、解決のためにクロス・ファンクショナル・チームを導入している。日本中の俊秀をかき集めた大自動車メーカーの数万人の社員にに見えなかった問題が、ゴーン氏の目にははっきり見えていたのである。

 ここにおいて明らかなように、過去数年間の日本経済が振り回され、未だに現在進行形の不良債権を抱えた金融機関の破綻や、経営危機への対処に際しても、事態を客観的に捉える現状把握力と、リーダーたちの自己相対化力の欠落(客観的に現状を把握しようとしない)、その危機意識を組織的に共有するコミュニケーション能力の欠落が見受けられる。自分を客観的に認識する「自己相対化」ができないので、どんなにひどい見込み違いをしていても気がつかない。「ユデガエル」の悲劇である。いくらムーディーズに国債を格下げされても、官房長官も自民党幹事長も「日本経済の底力を知らない」と涼しい顔でうそぶいている。しかしそう思っているのは本人たちだけで、世間は「日本は没落の過程にある」と思っている。だがリーダーが危機を知らなければ、事態は放置されるだけである。「自己相対化」能力は、リーダーに不可欠の資質であること、そして旧日本人にはそれが徹底的に欠けているという、最も望ましくない一例である。


 「問題を真正面から受け止めることが大切だ」「問題は進歩への機会になる、一つ残らず石をひっくり返して日産の隅々まで拡大鏡のもとにさらさなければならないと主張した」(カルロス・ゴーン氏)。これがリーダーのまともな姿勢だと思うのだが。

 当局も企業経営者も、責任ある立場の者は、最悪の事態を見越して万全の手当をしておかなければ、無責任のそしりは免れないのだが、旧日本人はそういう肝心なところだけは「みんな平等」なので、大手銀行破綻のようなカタストロフが起こってしまっても、責任者の無能を断罪しない。それを予期できなかった自分たちの浅はかさを恥じて「一億総ザンゲ」を行い、また懲りずに賽の河原の石積みを一から始めるというわけだ。


 旧日本人が社外に目を向けないというのは、自分たちの仕事を他社と比較して客観的に評価しない、する必要を感じていない、することを拒否している、ということだ。他人と較べさえしなければ、上位の者の権威が脅かされることはない。タリバンはテレビ放送を禁止していたし、北朝鮮国内のラジオは、ユーザーが周波数を変えて外国の放送を聞かないように、平壌放送に合わせてバリコンが固定されているらしいが、まあ似たようなものだ。


 それではまずいだろう。ライバル企業の動静や製品情報を詳細に分析し、自社と比較すれば、「なぜ他社にはできるのに自社にはできないのか」がわかってくる。それは効率化を推進する動機を与え、業務プロセスの改善点の発見にもつながるたろうし、自社の優位点を戦略的に補強しようという判断の根拠にもなる。社員が自分が進むべき方向を共有することができる。


 そうした一連の動きは、まず社外に目を向けることから始まる。しかし旧日本人が自発的に社外に目を向けることは、積極的に自分の意見を発言することと同様に、ほぼありえないことなのである。

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「新日本国」の夜明けは近いか






































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