明治維新は新日本人による革命か?
三百の藩が一つになったとき、日本人は自立することができたか。
「忠孝一致」というマジック
ここで明治維新について考えてみたいと思います。明治維新は新日本人による革命だったのでしょうか。すなわち明治維新を経て、日本人は旧日本人から新日本人に脱皮するような精神的変化を遂げたのでしょうか。
司馬遼太郎氏は、日本人は明治維新で大きく変わったという観点から小説を書いていますが、少なくとも先に述べたような日本の統治構造から考えると日本人の精神は明治維新を通してもまったく変化しなかったように思われます。むしろ、共同体依存的な性格はさらに強化されたのではないかとわたしは思います。
江戸時代の日本は、「藩」という300の小さな国にわかれていて、各々の藩の中で同じような天皇制的共同体統治を行っていたからです。つまり藩全体がひとつの家であり、当主は代々続く慣習なのですが、この藩主が実権を持っているかというとそうではありません。藩を取りまとめていたのは大石蔵之助のような家臣です(主君が差配していなかったからこそ、討ち入りのようなすごいプロジェクトに成功したのだと思います)。家臣団が実際に藩を動かしていたことは、藩主が家臣の言うことをきかなくなったときに、「藩主押し込め」といって藩主を解任して座敷牢に閉じ込めてしまうということが行われていたことからも明らかでしょう。
このようなかたちで260年間の太平の時代が続いたわけですが、幕末になって黒船が現れ開国を要求したときに、尊皇攘夷思想がわき起こってきます。黒船は強力な兵器を備えているので、ひとつの藩では到底太刀打ちできないということは、薩英戦争や下関戦争で明らかになりました。「外国に対抗するためには日本をひとつの国にして力を合わせなければならない」という考え方と、「その統合のための接着剤になるのは天皇だ」というアイデアが合体したものでしょう。