■ ホテル・旅館
客の目的に応じたサービスを
過剰包装、慇懃無礼はやめてね(4)
新さん 日本人が一対一でかしづかれてサービスを受けるのって、今は旅館ぐらいじゃないのかな。
雅子さま 料亭とはちょっと違いますよね。料亭だと仲居さんは「お運び」という感じがするけれど。旅館は総てをやってもらう「まかない」という感じがするから。いつの間にか布団まで引いてあって、「どこかにカメラでもつけてあるのではないか」といつも思うんだけど。
新さん 俵屋なんかで、ちょっとメシ食った後に外に遊びに行って、帰ってきたら風呂がいい湯加減で入っていたり、布団が敷いてあると、こっちは驚くよね。
運営者 でも旅館としては、それが一番のサービスとしてやっていることだと思うんですけど。
雅子さま そうそう、俵屋に泊まったときに驚いたのは、大勢で打ち上げで泊まったんだけど、ちょっと外に出てきたすきに風呂の温度がちゃんと元に戻って、ちょうどいいいい加減に調整されてるんですよね。あれが不思議を通り越して怖くてしょうがなかった。
運営者 「お前は木下藤吉郎か」と思ってしまうね。
新さん 「そこまでするか」と思うよね。まあ、あそこ、1泊5、6万円すると思うけれど、それくらい払うと「その程度やってもらって当然」と思うかもね。
雅子さま でも1泊2食ついてますよね。よく考えてみると、京都で普通のホテルに泊まってどこかに食事しに行くと、3,4万円ははるかに超えてしまう。だから悪くないですよ。しかも食事もあまり量が多くない。少なくておいしいものが出てくる。ただし欠点はお酒。全然ダメ。
運営者 俵屋って半分はガイジンが泊まるんだそうです。ガイジン向けの日本酒なのかもね。ひょっとしてワインの方が美味しいの揃えてんじゃないんですか。
雅子さま あと俵屋で凄かったのは石鹸です。これはしっとりしていて、すごくいいんですよ。優れもののライオンの植物物語の100倍しっとりしていると思う。ジョルジュ・サンクの石鹸みたい。
運営者 あれは花王が作っているそうです。
新さん 俺なんか、京都は1泊5500円で済ませてるもんね。東本願寺の向かいに外国人用の安い宿が沢山あるんだよ。夫婦2人で1万1000円。その分おいしいものを食べに行けばいいわけで。どーせ寝るだけなんだもん。東京にも本郷に1泊4500円というガイジン向けの旅館があるよ。そこは面白くて、ガイジンは布団の敷き方がわからないじゃない。だから最初から布団が敷いてある。彼らにしてみればそれが一番快適なわけだから。俺はそれでいいと思うんだ、だからパリに行っても2つ星のホテルにしか泊まらないようにしている。
雅子さま 私もわりとそうかも。300フラン前後で結構ちゃんとしたホテルがありますね。
新さん 清潔で、静かで、快適であればそれでいいわけ。他のサービスはいらないんだもん。テレビも要らないし、電話だっていらないし。だから女中が三つ指つく必要はないと思うんだよ。もちろん、コンシェルジュがいてバトラーがいて、ベルボーイがいてという、いいホテルもあるわけだから、サービス面を望む人は、そちらに泊まればいいわけで。だから俵屋のサービスは、あれはあれでいいんだよ。