「日本システム」とは何か
インタビュアー 飯坂彰啓
飯坂 ところでこれからは、「日本」という概念とかカテゴリーをどうやって維持していくべきなのでしょうか。ひょっとして、維持するべきではないのでしょうか。
これは非常にスケーラブルな考え方なんだけど、「人間の生命は大切にしましょう」と言いますよね。それを延長していくと、「動物の生命も大切に」といっている人もいる。「いや、植物はどうなのか」。言葉が分かるものだけを尊重しようというのであれば、サルはどうするのか、イルカはどうするのかという話になるし。
今度は逆に、人権ももっと狭く狭めて考えていくと、人種差別の話になるし。そうすると、「日本」というカテゴリーをどのように定義するのか、そしてどう守っていくか。
運営者 アメリカなら、「アメリカとは何か」と言うことを常に問い続け、定義し続けるということが、目的であり、アイデンティティーの確認作業であるという循環になっていく。日本はそれなくして成り立ち続ける国ですから。
飯坂 いまは日本列島が境界になってるけれど、戦前にはそれを外部に拡張しようとして、天皇を敬うことを理念としてやっていたわけで、そうした戦前の経験は非常に貴重だったと思うんですけど。
運営者 神社や駐在所を輸出していましたよね。一度台湾に行って、その痕跡を見てみたいと思っているのですが。涙ぐましい努力ですよ。信仰という安直な精神的紐帯形成の仕組みを含めて、社会システムを移植していったわけです。
米倉誠一郎先生に伺ったのですが、西海岸の大都市には地下鉄すらない。それはそうですよ、自動車会社が鉄道の敷設を邪魔したわけですから。しかしアメリカ人にはそういう都市の大量交通機関のインフラをつくったり、オペレーションするノウハウはないわけです。ところが、日本ではこれだけ狭いところにこれだけの人間が凝縮して社会をちゃんとやっていて、われわれは山手線を15秒刻みで走らせる能力を持っているわけです。そのシステムを輸出するということは、アジア諸国にとっては非常なプラスになるはずです。華僑が都市経済を握っている限りは、アジア経済は都市中心に発達するはずですから。効率的な都市を作るという意味においては、このダメな日本にも、輸出できるものはあるんだそうです。
飯坂 台湾が日本の新幹線を採用したのは正しいことなんですね。TGVもICEも、新幹線がなければ、あんなもの作ろうと思わなかったと思いますし。独自の発明とは言えないけれど、日本でつくったことがきっかけになって世界に広がったものは、結構あると思いますよ。
運営者 われわれはそういうものをつくる能力を持っているということは認識しておくべきでしょう。
飯坂 われわれは意味のある何かを作る能力をちゃんと持っているのだとすれば、困ったちゃんである、何も知らずに会社にぶら下がっている上の人たちをどのようにして退場させるかが問題ですね。