日本株式会社のダメ社員に成り下がったか
インタビュアー 飯坂彰啓
運営者 そういえば、海軍がミッドウェー作戦の前に、シミュレーションをやったんだそうですよ。その結果、日本の空母が3隻沈んだそうです。
考えてみると、島の中に航空隊の基地があって、かつ航空母艦3隻がその周りを遊弋しているという状況の島を攻略するというのは、大戦力を投入してもかなり難しい話ですよね。その後こうした島の洋上からの攻略ノウハウを確立したのは、アメリカ海兵隊です。
それで海軍の参謀たちはシミュレーション結果を見てどうしたかというと、「こういうことはあり得ないから見なかった事にしよう」といって、いったん沈んだ空母を何事もなかったかのように引き上げて、そのまま作戦を続行し、ミッドウェーをめでたく攻略したんだそうです。それで「しめしめ」と言って当時世界最強の大機動部隊を押し立てて攻めていったら、取り返しのつかない惨敗をしてしまった。貴重なシミュレーション結果が出ているのだから、それを参考にするべきだったと思うんですけどね。負けるべくして負けたわけですな。
飯坂 なぜそこで「やめよう」という判断ができないのかなあ。
運営者 こういうことが、今でも平気であるということですよ。そうすると、どう考えたって敗ける戦いに勝つ方法は一つだけです。今の日本の組織において勝つリーダーは、どういう奴かというと、何もやらない奴なんです。「自社の人的資源には正しい判断をする能力がない」ということがわかっている場合、突っ込んだら負けますからね。だから、経理屋とか銀行出身で、何をどうしても頑として動かない。「何かやりたい」と部下が言っても「やるな」とはねつけ続けるタイプのリーダーです。煮ても焼いても食えない奴ですよ。
でも彼にできることは、延命措置だけです。結局彼は、自分の任期を大過なく過ごした後、自分の退職年金を会社を永遠に払い続けてくれるような、決して冒険をしない部下を後継者に指名するわけです。
飯坂 なるほど、雪印の社長も記者会見に引きずり出されるというのは本意ではなくて、毎日規則正しく睡眠を取り、経理のオフイスに行って、「あれはやるなこれはやるな」と言っていれば、ちゃんと職務をまっとうすることができたわけですね。
運営者 残念ながら、睡眠が足りなかったらしいんですなぁ(笑)。そんな奴がトップになる会社のシステム自体がそもそもおかしいのだから、それやっぱり直すべきだと思うし、まあ未だに直っていないと思いますが。
それは、正しい競争が行われていない結果なんですよ。エグゼクティブ・ディベロップメント・コースができていて、トップが将来のトップ候補をきちんと自分の目で選抜できる体制になっていなければ、まともな奴から干されていくのは当たり前ですからね。みんな変革を望んでいないんだから。
だからどんなに青臭く思えても、組織内では理念を追求し続ける必要が常にあるんです。この辺、大半の企業は失格だと思いますね。例外はごく一部で、それらの企業は社会から称賛を浴びていることもあります。逆に、安易にメディアへの露出を嫌うリーダーを頂いている場合もありますね。ヤマト運輸なんかそうですよ。その気持ちは分かりますがね。
飯坂 まあ食品メーカーは農水省・厚生省の監督を受けていて、社長本人の感覚からしても中間管理職という感じでしょうから。
運営者 銀行もやはり大蔵省通産省が主導する巨大な金融システムの一部分でしかなかったので、民間じゃないんですよ。経営責任もないんです。銀行の中にリーダも居なければ中心(コア)もないから、責任はどこにもない体制なんですけどね。そういうシステムの一部分ですから、組織の自律性が存在しない。誰も責任を取る必要はないわけです。
「自社が社会システムの構成要素である」という認識は正しいんですよ。ただし構成要素は、システムに対して前向きにコミットしていかなければ全く存在意味がありません。ところが日本企業はいつの間にか、システム全体にぶら下がるようになったんですね。ダメ社員化してしまったわけです。日本株式会社のダメ社員。でも、リストラされないと。
そのように責任をずらすテクニックにかけては、非常に素晴らしい回避のシステムが確立されています。責任を取らずにすませるシステムを完璧につくり上げていた。
飯坂 それが、経営層にとってのリスクマネジメントということですな。