無意味な「経営幹部のゴーイング・コンサーン」
インタビュアー 飯坂彰啓
運営者 経営幹部についてのリスクマネジメントはかなりしっかりしています。それでも覆いきれないくらい、最近の経営の破綻ぶりは無軌道であるということでしょう。
そういう企業のゴーイング・コンサーンに果たして意味があるのだろうかと思います。
飯坂 経営幹部のゴーイング・コンサーンにしかなっていないんですけど(笑)。
運営者 株主にとっては、何の意味もありませんな。なんせ、ちょっと前までは役員には定年すらなかったんですから。人本主義というけれど、役員の人本主義がまず第一で、役員の人本主義がまっとうできるのであれば、従業員のほうもちょっとは考えてやろうかという……。
飯坂 ノーブリス・オブリージュというのが、全くないんだねえ。
運営者 「恥を知れ」と言いたい。昔の偉人、例えば高橋是清みたいな進んでわが身を犠牲にした人の爪の垢でも煎じて飲むべきです。でも、何が恥ずかしいことなのかすら知らないんだもんなあ。どうしようもないですよ。
飯坂 だって高橋是清は、日露戦争の時に走り回ったんだから、それは分かっているでしょう。
運営者 彼がイギリスで戦時国債を売って戦費を調達することができたから、日本は戦争を続けることができた。そういう強烈な経験があれば、筋金入りですよね。国家危急を救うという。そこまでいかないとだめなのかなぁ。でもそんなに危急ばかりやっているとまずいんですけど。日本は今度危急が来たら、もうミッドウェー海戦並に取り返しがつかないはずなんです。
飯坂 ロシアの侵略を食い止めた国は、日本が初めてですからね。ホントのピンチだったと思いますよ。それを成し遂げた人々は、みんな「自分がそれを成し遂げた」と思っているでしょう。高橋是清も、明石元二郎も、児玉源太郎も。それは素晴らしいことですよ。
運営者 それを実現するのが真のリーダーでしょう。
僕は、「人を使うのが苦手だ」という自覚があって、だから決して自分では会社をつくろうと思わないんですよね。そこまで人が悪くないと言うか……。
飯坂 それは、日本で人を使うということは、必然的に親分子分の関係でなければならなかったからでしょう。近代的な企業経営においては、本来は親分子分の関係でなくてもマネジメントはできるはずであって、まるっきり日本のほうが歪んでいるんですよ。
運営者 そう、それが嫌なんですねえ。
考えちゃいますよ。人は何のために働くか、そのときに何が精神的な支えになるのか。
僕が今一番つらいことは、支えがないことですよ。というのは、本の原稿を脱稿してからの4カ月間は、「こんなにいい話、役に立つ面白い話があるんだそう、みんな読んでくれえええ」と思っているのに、編集関係者以外はだれもそれに目を触れないという期間なわけです。そうすると、本当は世の中に向かって何かを発表することが心の支えになるはずなのに、そこのところが全く断絶しているわけですから、この苦しみは表現者であるがゆえに更に厳しいわけです。
本を書いている間よりも、その後の方がつらいんです。「だれか1人でもいいからこれがわかってくれる人がいたらいい」と思って書いていたわけですから。誰も読んでいないということは拷問に近いわけです。でもやっぱり発行までは見せられない。雑誌とはあまりにリードタイムが違いすぎますね。まあ、編集作業が丁寧だから、その分質が高いということはあるのですが。雑誌なら校了して1週間後には抗議の電話がかかってきてますよ(笑)。