士は己を知る者のために死す
インタビュアー 飯坂彰啓
運営者 で、人は一次的には誰のために働くかというと、それは、自分の働きを理解してくれる人のためですし、そういう人がいるから頑張って働くことができるわけです。それはだれかというと、上司なんですよ。部下は、嘘でもいいから上司に褒めてほしい、理解してほしい、部下を理解して働かせるのは上司なんです。
飯坂 それはどうかな。本当によい仕事をしてる人は、仕事自体が好きでやってるんですよ。
運営者 それはオタクでして。
飯坂 オタクにとっていい上司というのは、仕事のための環境を整えてくれる人ですよ。
運営者 なおかつ、自分が仕事をしたときにそれをきちんと評価ができる人がいないとオタクでも続かないと思いますが。
飯坂 上司が好きだから上司のために仕事するということはないですよ。
運営者 もちろんそうは言ってません。女性の部下が、男性の上司にべたべたしたいから一生懸命働くというのとは違うわけです。
ま、それは置いておいても、経済合理性だけでは人は動かないということはあると思うんです。そうすると如何にして部下を鼓舞して働かせるか、これは非常に重要な能力なのですが、この能力がいま急速に失われれつつあると思います。
またもやユリウス・カエサルの話ですが、最近読み直したもので。
というのも、ユリウス・カエサルがルビコン川を渡ったというのは、教科書的に成功した内乱のケースで、非常に参考になるかもしれないんです。なぜかというと、それまでのローマは共和制国家だったわけですが、共和制は限界を露呈していた。そこで、カエサルは元老院に対し、庶民の代表としての第一人者=皇帝という地位を確立し、帝政ローマ確立への道筋をつけて、政治機構を根本的に改編するわけです。その仕事は暗殺された後、養子のアウグストゥスに受け継がれるわけですが、要するにポンペイウスを代表とする共和制派-旧ローマ人を、新ローマ人であるカエサルが武力で打ち破って、ローマという世界帝国の政体を全く入れ替えてしまうという目にも鮮やかな革命をやってのけたわけです。「もし彼のような卓越したリーダーが現れて、新日本国への移行を鮮やかにやってくれたら」と渇望しますよ。
面白いのは、カエサルの周囲には若い世代が集まった。これがキケロの言う「若き過激派たち」だったわけですが、ポンペイウス側を支持したのは年寄りたちだった。世代間闘争だったんです。そいういところからも、カエサルがやろうとしたのが新ローマ建国だったことがわかります。
それでね、天才カエサルは、軍団長から百人隊長、一兵卒に至るまで、見事に人心を掌握し、自分の思う通り軍隊を指揮することができたみたいなんです。
飯坂 上司は、まず部下よりも能力が勝っていなければなりませんね、努力によって習得できる部分では。能力が足りなければ、少なくとも努力はしてもらわないとね。
運営者 「地位は能力を超える」と思っている馬鹿が多いですからね。そういうバカは、確信を持ってチームを破滅に追い込みます。「ケイン号の叛乱」でボギーが演じた権威主義の固まりの船長みたいな奴ですよ。これはもう、どうしようもないほんもののバカですよね。ところがそういう奴は地位を得るためになりふり構わないから、うまく出世してしまう(笑)。恥というものを知りませんから。
『ローマ人の物語』の新作も最近出たので読まないとね。