ルネサンスは人間をどう変えたか
インタビュアー 飯坂彰啓
運営者 それで、このような新日本人と旧日本人の意識のあり方の差、すなわち「絶対性への依存を前提とした閉鎖的組織の中での生き方」と、「自立した個人の集合が社会をつくるという考え方」の差がここにあるわけですが、じゃあ欧米人はどうなのかなという問題があります。
それは私は、キリスト教の社会支配が始まった4世紀から中世にかけては、西欧社会も絶対者の依存性を備えた社会システムであり、またそこに生きる人々も閉鎖的かつ内向公的、自己完結的なものの考え方をしていたであろうと思うんです。しかし、13世紀から16世紀にかけて、ルネサンスを経ることによって、自分自身が主体的に生きるという姿勢を回復してきたのだろう、スコラ学の支配を抜けて科学的思考を発達させる契機をつかんだのだろう、と理解しています。
この一文だけを提示しておきます。
ピーコ(1463-94)というルネサンス末期の人の書いた『人間の尊厳についての演説』というものですが、彼もやっぱり教会に迫害されるんですけどね。
おまえは、いかなる束縛によっても制限されず、私がおまえをその手中に委ねたおまえの自由意志に従って、おまえの本性を決定するべきである。
われわれは、おまえを天上的なものとしても、地上的なものとしても、死すべきものとしても、不死なるものとしても造らなかったが、それは、おまえ自身のいわば「自由意志を備えた名誉ある造形者・形成者」として、おまえが選び取る形をおまえ自身が造り出すためである。おまえは下位のものどもである獣へと退化することもできるだろうし、また上位なものである神秘的なものへと、おまえ自身の決心によっては生まれ変わることもできるだろう。
ルネサンス人は300年かけて、神の支配から脱却し、自由意志=すなわち「自立」を手にしたのだろうと思うのです。その後、宗教改革に対抗するために、1545-63年にトリエントの宗教会議が開かれ、宗教の自由な解釈が抑制されることになり、ルネサンスの時代は終わります。
しばらく反動の時代が続くわけですが、それでも西洋人の精神は再びすがりつくべき神を必要としたわけではない。彼らは精神の底の方で、本質的に変容したのだと思います。だからルネサンスは偉大なのです。
日本にも鎌倉仏教や安土桃山時代など、その機会は過去に何度かあったが、結局は天皇制支配システムの元に収斂し、共同体依存傾向を捨て去ることができず今日まで続いているのです。それは幸か不幸か、天皇制支配システムが洗練に磨きをかけ続けてきたことの証明でもあります。それで今でも、天皇制支配体制(社員にとっては会社への依存体制)は会社の中で命脈を保ち続けているのです。