「個人主義と自由主義が誤謬錯覚の根源」
インタビュアー 飯坂彰啓
運営者 事件のときの彼の心理状態を把握していないのですが、美濃部達吉にしてみれば「ああ、このままではどうなるかは分からない」というやむにやまれぬ気持だったのではないでしょうかね。法学者のロジックだと堪軍・官僚だけでなくあらゆる不満分子が右翼に流入した。えられないことですからね。
9月に不敬罪の起訴猶予が決定し、翌日彼は貴族院議員を辞めるわけですが、新聞に「私の学説をひるがえすとか自己の著書の間違っていたことを認めたとか言う問題ではない・・・」と声明発表して、それでまた右翼が盛り上がったので、それを鎮めるために岡田内閣は第2次「国体明徴声明」発表を余儀なくされるんですから。
飯坂 でも結局、どうしようもないことになってしまったわけじゃないですか。
運営者 面白い資料があるんですよ。
今泉定助という神道思想家が書いた『天皇機関説を排撃す』という文書で、ひどい文章なんだけど、これには右翼のロジックがとても純粋に表されていると思いますね。旧日本人を縛っている意識の根源は、この辺にあると思います。
「美濃部氏の根本思想は第一が独立なる個人が単位であって、その個人が相互に精神的又は物質的の交渉を有する生活を個人生活なりと為す個人主義思想、第二は人間の意思は本来無制限に自由なもので法に依って規律せらるると為す自由主義思想である。此の個人主義と自由主義とが一切の誤謬錯覚の根源であり、根本的な誤謬である。
(中略)
日本思想の基調を為すものは自我の確立にあらずして彼我の一体、我境不二である。之れを皇道の絶対観、全体主義と云う。凡てがこの全体主義から出発するのである。故に人生生活に於いても全体的国家生活が本質的なもので、個人生活はその分派たるに過ぎない。人間は絶対無限の団体生活を営むものであって、この団体は中心分派帰一一体の原理によって統制せられ、個人がこの全体に帰入し、同化することが人生生活の真の意義と見る。これは日本思想である。この思想を表現したものが大和民族の霊魂観であって、万有同根、彼我一体、我境不二、中心分派帰一等の大原理がこれより流出するのである。これは宇宙の最高絶対の真理であって、世界無比、万国に卓絶せる大思想である。而してこの絶対性と普遍妥当性とは自然科学、精神科学上の無数の例示を以て証明せられる所である。(中略)
天皇は国家の中心であると共に、全体であらせられる。『原則として、天皇の命令に服するものではない』というが如きものは我が日本には一つもあり得ない。
すごいですよね。電波入ってます。どうしようもないです。
ただ、私がこれをひつこく言ってるのは、この精神がいまだに旧日本人にも流れている、それを再認識していただくためなんです。