■目的意識の欠如 / 目的合理性
若造 そこまで悟られていると、これ以上何を言ったらいいのか困っちゃうんだけど、そんなに会社の仲間たちに対して寛大になれるんだったら、いったい何のために会社に行って働いてるのと聞きたいよね。
会社に行く目的って、何?
おやじ だから、会社に行って毎月給料を振り込んでもらうことが目的なんだよ。
若造 そんなのあり? まったくの自己目的化じゃない?
おやじ お前はホントに甘ちゃんだな。単に会社に行ってるだけじゃだめなんだよ。会社のために忠誠を尽くして頑張らなければ、自分の立場を守り通すことはできないもんだ。
若造 それで結局、旧日本人はとにかく頑張るんだよね。何のために頑張っているのかわからないけれど。ぼくの上司の世代には、「なにしろ頑張ってさえいればいい」という思い込みがあるようだ。
やってることは時代後れの、今までやっているのとまったく同じ仕事なんだけれど、結果は問われないからね。それに自分がスキルを伸ばしていけなくてもあまり気にならないみたいだし。
だけどぼくは、「結果の出せないムダな仕事のために汗をかきたい」とは思わない。
ぼくのチームは、ライバル企業に太刀打ちできるはずがないことを一生懸命やろうとしてるんだよ。勝ちに行くにしては、資源の投入量が少なすぎるし、やり方もまずいから、必ず負けて撤退するのが見えている。どう見てもまちがった方向にトンネルを掘っているわけ。だからぼくは、「みんなちょっと待ってよ、これはまちがった方向にトンネルを掘っているから、いくら頑張って掘っても意味がないよ」と大声で説得するんだけど、だれも振り向かないんだよね。
おやじ それ、見たことか。お前の人徳がないからそうなるんだ。
若造 いやいや、ちょっと待ってよ。「だれもぼくが言うことを聞かない」ということは彼らの正しさを示しているんじゃないよ。問題は、もうしばらくしたら、ばく大な欠損を抱えてプロジェクトを撤退しなければならなくなるんだけど。ぼくは「仲間に嫌われようがどうしようが、いま自分が考えていることを正しく人に伝える努力をするべきだ」と思ってるからね。
それにしても、どうしてみんな何も考えずに無意味な仕事を続けられるのかな。まったく不思議だよ。
おやじ だからお前は仕事の本質的を理解していないんだ。
仕事をやっていく上では、ただ単に目標達成をすればいいというわけではなくて、組織の上下左右に気配りをしなければならないんだぞ。やってはならないタブーもいっぱいあるから、そういうものを跨いで前進するのは、下から見ているほど楽じゃないんだ。
若造 つまり、みんな仕事を通して成果を追求しているわけではなくて、組織の論理を通すことが最優先で、ただ単に仕事をしていることそのものに意味があると思っているわけだよね。それはぼくは永遠に理解できないと思うよ。本当はどうでもよい組織の論理にばかり気を配って、目的達成や、守らなければならない社会的なルールを無視していたりするわけだから。
まあ何カ月かたって、「しまった、やっぱりまちがった方向にトンネルを掘っていた」とわかったとしても、誰も責任をとらないし、みんなの給料が減るだけだから問題はないという結末になるのがわかってるんだけど。これじゃあ、目的意識のかけらもないね。
そういうことだから、ちゃんと部下を育成しようとする上司は希だし、みんな会社の金で飲みに行って愚痴ばかりこぼしている。仕事に対して後ろ向きだよね。「辞めて留学にでも行こう」と思う若者が増えても仕方がないよ。