■即物的志向 / 内的世界の充実を志向
若造 それから、旧日本人は「見えないものの価値」を理解しようとしないよね。
おやじ 見えないもののことなんか、誰もわかるはずがないじゃないか。
若造 そうだろうか? 会社の資産の中で目に見えるものは、建物とか、工場とか、在庫とかだよね。だけど会社で一番価値があるものは、そういうものじゃないよね。
おやじ 当たり前だ、会社で一番大事なのは人材に決まってるだろう。
若造 今どきは、旧日本人もちゃんとそう言えるようになったけど、資源が乏しかった昔は軍隊でパイロットが墜落すると、「恐れ多くも天皇陛下にいただいた大事な飛行機を壊すとは何事だっ!」と、身体のことを心配されるよりも全体に帰属する資産を壊したことを責められたくらい旧日本型組織の人間は虐げられていた。
だからいくら「人材が大事だ」と言っても、人材に付随する何が大事なのかということはあまり認識されていない思うんだ。
おやじ 社員は会社から切り離されないから、そんなこと考えなくても大丈夫なんだよ。社員は「みんな大事」なんだ。
若造 なるほど、それはそうかもしれない。だけど会社を改革するときには、その一番大切な部分にメスを入れなければならないわけだから、そこを分けて考えなければいけないよね。
見えない会社の価値というのは、組織風土、経営ノウハウ、ブランド、知識所有権、取引関係、情報力、情報処理力といったものだと思うんだよ。
おやじ なんだそりゃ。そんな目に見えないもの、どうしょうもないじゃないか。
若造 でもこれが、会社が利益を生み出し続ける源泉だと思わない? だからこれらをどうやって高めていくかが、経営者が意識して見ていなければならないことなんだよ。
おやじ そんなもんかな。経営者は利益を出せばいいんだから、とにかくリストラを続ければ何とかなるんじゃないのか?
若造 リストラで、収益力を生み出すそうした力までなくしてしまったら、お先真っ暗だよね。だからブランド力を守るための宣伝費は落とせないし、高度な情報処理や、経営ノウハウ構築を行える人材を社外に流出をさせてはいけないんだよ。
おやじ うちの会社も苦労して建てた本社ビルを証券化して売り払ってしまったんだが、情けないことだよな。社員の誇りだったのに。どんどん資産を切り売りしている。銀行から金を借りる担保が減っているということじゃないか。困ったもんだ。