■社会全体より組織が上位 / 組織より社会が上位4
おやじ それはだな、お前たちが全然理解していないのは、オレたちにとっては「仕事がすべて」ということがあるんだよ。仕事をなくしてわれわれは存在しない。だからこそ頑張れるんだ。
そしてそういうわれわれを、会社も受け容れてくれるんだ。お前たちのような根性なしは、結局努力するのが嫌だから、会社から与えられる課題から逃げ出しているだけなんだ。敵前逃亡だ。本来なら銃殺だ。それをよくもまあ、偉そうに言えたもんだ。
若造 はあ、それはご立派なことですね。
旧日本人社員は、口を開けば、「ぼくは仕事のことしか考えてない、会社が人生そのものだ」と嬉しそうに言うけれど、それは会社だけが自分の狭い世界であることを白状してるだけのこと。可哀想だけど会社にしがみつくしか能がないのでは、この先生き残ることはできないはすだよ。「会社が人生そのものだ」は、これから先は禁句になると思うね。
どうして「会社にしか仕事がない」と思い込めるのかなぁ。それこそ、会社の呪縛があるのか、あるいは会社と旧日本人は物理的に融合しているのか、ぼくらから見てると不気味なことだね。
会社の外を見れば、世界は広いじゃない。会社の外に出て社会の人たちに何かを訴えかけるとか、社会の運営に参加するというのも、立派な仕事だと思わない?
おやじ 今はやりの、ボランティアとか、NPOとかいうやつだろう。いったい何を考えてああいうことをやっているのかね。あれでどれだけゼニになるというんだ?
若造 それは、大企業に勤めているよりはどうしても少ないよ。みんな「自分の給料の分も、活動資金に回そう」と考えてるんだから。
おやじ それは勇ましくて偉いかもしれないが、オレはボランティアをさせるためにお前を大学にまで行かせたんじゃないぞ。
会社以外のことに時間を使っても、意味ないじゃないか? だって自分にとって損だろう。ふつうまともな人間というのは、自分の利益になることしかやらないもんだ。
若造 どうして、世の人のためになることに意味がないわけ? 物質的に豊かになれなくても、だれかを助けてあげられれば、自分の心が豊かになるじゃないか。社会を自分たちで運営していくために、自分自身が手を貸そうとしなければ、だれも社会を支えようとはしなくなってしまう。みんな嫌なことを人に押しつけるようだと、社会が成り立たないよね。そうすると、会社がどんなにも儲けていたとしても、そのツケが社会に溜まっていったら、結局は自分もそれを負担しなければならなくなっちゃうわけだから。
だから「社会参加意識」というのは、みんなが常識として持っていなければならないことだと思うよ。
おやじ そうね。オレも若いころはそう思ってたよ。ちゃんと大学紛争もやったし。だけどそういう純粋な思いは、権力によってつぶされてしまった。
だからオレたちの世代は理解したんだよ。「そんなポーズをとり続ける必要はない。世の中というのは、ちゃんとお上が治めてくれてるものだ。心配する必要はないんだ。税金を払ってさえいれば、世の中はわれわれを受け容れてくれるものなんだ」。そう思っていて、まちがいない。お前は、そういう世間のことわりを知らないから焦っているだけなんだろう。あるいは人間不信なのか?
若造 そうか、旧日本人には社会参加意識がないから、税金の使い途についても考えずにすんでるんだ。その結果、日本政府は700兆円もの累積債務を抱えて、世界経済の頭上につるされた「ダモクレスの剣」になってるんだよ。
お金は怖いものなんだから、税金の使い方をきちんと監視するのは国民の義務だよ。だから選挙ではちゃんとそれができる人材を選ぶ必要があるのに、投票率は低いし立候補者の人材難もあって、結局議員は利益誘導ばかりする状況になっている。それもやっぱり、旧日本人に社会参加意識がないからなんだね。
おやじ そんなことはないぞ、オレだって選挙を手伝ったことあるんだから。うちの工場の票をバックに県議会議員を送り出したことがあってね。でもあの先生は、全然役に立たなかったな。
若造 単なる組織選挙じゃないか、だめだこりゃ。