■鬼上司・平目部下 / 人間は哲学や理念で動く
おやじ お前はホントに理想主義者だな。そんなこと考えてる奴なんかほとんどいないぞ。だれもいないんじゃないか?
仕事というのは、上司に命令されたことをやる、それがすべてだ。上から言われたことをきちんとやっていれば、会社はわれわれをちゃんと受け容れてくれるんだ。それ以上のことは必要じゃない。だからどんな仕事でも命令されたことはその意味を考えずにちゃんと達成すればいいんだ。仕事の意味なんか考えたら、ばかばかしいことばかりだぞ。しかしそれをやりおおせてこそ、サラリーマンの存在の意味があるんだ。それこそがサラリーマンの王道だ。言われたことを過不足なくきちんとできて、ヨイショがうまくて上司のおぼえのめでたい人間が、出世できるんだ。
よく研修なんかで、「仕事は自分でつくるもの」なんて電通の昔の社長の話を引き合いに出して言っているが、そんなことを信じて新しいことをやったりしたら、お前の上司が困るだけだ。上司にしてみれば新しい仕事なんかどこへ持っていっていけばいいのかわからないじゃないか。置き所がわからないようなものをつくってしまうのは罪なんだ。そういうところを勘違いしてはいけない。
若造 そうすると、ライバル会社に勝つために必要な新しい価値の創出はどこから起こってくるわけ? そういうのは人為の技ではなくて、どこかから自然に湧いてくるわけ?
おやじ そういうのは、われわれがやらなくても、会社の中のどこか他の誰かがやってくれるんだよ。
若造 社員全員がそういうふうに考えていたらどうするわけ?
おやじ 大丈夫だよ、会社は大きいんだから、誰かが考えていてくれるはずさ。
若造 まさにそれを、「ぶら下がり根性」と言うんだよ。
一番われわれ若手社員のやる気をなくさせるのは、「上司は鬼じゃないといけない」と思い込んでいる旧日本人管理職なんだ。怒鳴っても、机をたたいても、戦術自体がまちがっていたら売り上げは上がらないっつーの。恫喝型の上司に会うと、「あー、そういう人なのね、あなたの部下はそれで動くかもしれないけど、僕は違うよ」と思わず醒めた目で見てしまうな。そうするとますます激高して収まりがつかなくなるんだけど。どうやら恐縮の態度を見せないといけないらしいんだな。
なぜ彼らは鬼軍曹を気取ろうとするのか。理由はいたって簡単で、彼ら自身が「仕事というのは上から強制してやらせられるものだ」と思っているからなんだよ。そして彼ら自身が、顧客よりも上司の方や社内を見て受け身の仕事をしているからだよ。だから儲からないんだよ。
「黙って上司に言われる通りやっていれば出世できた」という今までの会社の常識は、これからは通用しないよ。