■鬼上司・平目部下 / 人間は哲学や理念で動く2
おやじ じゃあどうすればいいというんだ。一人で仕事のやり方は変えられないぞ。ひとりぼっちのくせに、何をでかい口を利いてるんだ。会社は大きいが、個人は小さい。権威には勝てっこないんだ。痛い目に遭わないと、それがわからんのか。
若造 そういうふうにあきらめたら、すべて終わりだよね。もしビル・ゲイツとポール・アレンが、「自分たちだけでは何もできないし、何も変えられない」と思っていたら、マイクロソフトはできなかったでしょう。だけど彼らは自分たちの力を信じたから、世界のパソコンを支配し、世界一の金持ちになることができた。
人間の力を最大に発揮させるものは、上司の叱咤激励や、目の前にぶら下げられたニンジンじゃない。本人の自発的な動機による行動なんだよ。じゃあ何が人間を動かすのか、それは個人の中で学習や経験によって積み重ねてきた価値観や、自分が固く信じている理念とか哲学なんだよ。それに従ってわれわれは、よりよきものを求めて歩いていくんだ。
われわれが会社にいるのは、別に組織のロジックに服従するためではない。自分が目的を探したり、あるいは自分が世の中に働きかけるための方便として会社にいることを選択しているわけであって、「この会社は自分の信念に反している」と思ったら、辞めればいいだけだよ。どうせそんな会社はこの先長くないんだから。
同じ理念を持つ人間がどんどん増えてきて、力を合わせて会社を変えたり、社会をつくっていけば、理念が組織の方向を変えることになるだろう。そして新しい理念をもとに新しい社会をつくることすらできるかもしれないんだよ。
おやじ 随分大きな話で、雲をつかむような話だな。
若造 「空を飛びたい!」と望み、「オレは空を飛ぶものがつくれる!」と自分の持つ力を信じられる人がひとりもいなかったら、人間は飛行機をつくれなかっただろうね。だんごを食べながらぼんやりと月を見ている人しかいなかったら、人類が月に足跡を残すことはなかったろうね。