フラクタル理論を利用した市場の研究
飯坂 そうです。ファジィとかニューロとか似たようなのがいろいろ製品化されました。そうやって、本質を理解せずに言葉だけ消費しつくして、あとは見向きもしない、というのが日本のマーケティングのお約束ですが、いかがなものかと。
フラクタルとは何かというと、例えば海岸線であるとか山並みであるとか、どんなに細くしても相似形なものがある。これについてフラクタル次元という考え方を提案したわけです。
たとえば雪の結晶のような自己相似形であればフラクタル図形なんです。雪の結晶はフラクタル図形の一つで、コッホ曲線と呼ばれています(分割した2点を頂点とする正三角形の作図を無限に繰り返すことによって得られる図形)。
マンデルブロさんは金融市場にも興味を持っていました。「市場は正規分布に従うものではない」ということを最初に言い出した人たちの一人なんです。
運営者 へえー、マンデルブロが市場についての本を書いているとは、今日の今日まで知らなかったですよ。
飯坂 高安さんが監訳されたマンデルブロの著書『禁断の市場 フラクタルでみるリスクとリターン』 原題:The (mis) behavior of markets.という本に書いてあるのも、それなりにもっともなことだと思います。
ただし、これが今回の金融危機の原因かというと、それはちょっと性格の違う話だと思います。
運営者 はっはあー、何か見えてきたなぁ。つまり日経の経済教室の担当者は、この本のタイトルから考えて高安氏に登場を依頼したんでしょう。憶測ですが。
飯坂 高安さんは、マンデルブロ教授は「近い将来、ケタ違いに大きな金融危機の発生を明確に警告していた」と書いていますが、これはブラックマンデーやアジア通貨危機、ITバブル崩壊といったたぐいのマーケットの暴落を念頭に置いて書いているのだと僕は理解しています。ごくかいつまんで言うと、「暴落は多くの人の想定を超えた頻度で起こる」ということです。
もちろんいったん何かの要因でクラッシュが起きれば、それが一時的に増幅される傾向はありますから、その点に関しては今回のサブプライム危機にもある程度あてはまるかもしれませんが。
「嵐は必ず来る」というのはその通りですが、今回の嵐は違った方向から来た嵐であると思います。「大風が来て船が転覆する」とマンデルブロ教授は予言したんだけれど、今回は雷に当たって船が沈んだようなものなんです。
運営者 面白い比喩じゃないですか。
飯坂 それで、経済物理学というのは、研究者も増えてきているしある程度の成果を出していると思うのですが、基本的には、マーケットプライスがどのように変動し、どのように分布するかという値動きの世界の研究がファースト・イシューなんです。つまり、観測対象たる「市場」を物理現象の一種とみなして、それを物理学の手法でモデル化しようという試みです。したがって、株や為替や先物のように取引所で取引されるなどして流動性が高くデータが豊富に収集できる市場が、現在のところ主たる研究対象となっています。
運営者 なるほど、やっと理解できました。経済物理学というのは、フラクタル理論を利用して市場を研究している学問なんですね。すいません、鈍くて。