金融機関は、売り手でもあり買い手でもある
飯坂 リテール向けの大量販売商品ならば、売り手、買い手という区分は適当なのですが、プロ対プロの取引ではあまり意味はありません。
かわりにセルサイド、バイサイドという言い方をします。金融機関はそれぞれセルサイドとバイサイドを持っています。一般にセルサイドとは投資銀行/証券会社、バイサイドとは機関投資家と考えてもらって差し支えありません。単に売り手、買い手といってしまうと、個別の取引の売り手、買い手ということになってしまい、日常的にセルサイドも買い手になりますし、バイサイドも売り手になります。また金融機関の中に、セルサイド部門とバイサイド部門が両方あることも一般的です(部門間にウォールはありますが)。
さて、仮に「売り手」=セルサイド、「買い手」=バイサイドと読み替えたとします。その場合でも「セルサイド責任」のメタファーを適用するのは、いま一つ無理があります。
なぜならば、今回の金融危機の原因はセルサイドが大量損失を計上したことに直接は起因しているからです。セルサイドの損失の源泉は、セルサイドが保有する「仕入れ」金融商品および「自己保有分(売れ残りと言ってもいい)」です。
一方で、バイサイドが倒産して公的資金を入れたと言う話は聞きません。バイサイドが購入した金融商品の一部がデフォルトになっているとしても、それが大問題になっているわけではありません。
ある食品会社が仕入れた材料が不良在庫となって、あるいはそこから有毒物質が流出して、それが原因で倒産しようとも、それを売り手責任とは言いません。
しいて言えば、金融危機に対するセルサイドの責任は、公害責任(立証されるのであれば)とか「平和に対する罪」に比較されるべきでしょう。
ちなみに、LTCM事件はバイサイド、ITバブル崩壊はセルサイドに問題があったと思います。
また、例えばこのサブプライムの証券化商品の場合であれば、銀行が売り手になったものを投資銀行のアレンジによって証券化して、機関投資家に販売する。その商品を元の銀行が買うといったケースも少なからずあるわけで、そのような場合であれば情報の非対称性というのは、どちらの方に問題があるのかわからないということになります。
運営者 情報の非対称性の問題はわかります。しかし証券化商品を組成するときに投資銀行が介在しているという事実に私は注目しますけど。
飯坂 インターミディアリー(仲介)ですからね。
運営者 単なる仲介なのか、それともそのとき間に入って証券化商品を仕立て直していて、その時高安氏の言うところの悪意が入っている可能性もあるじゃないですか。
飯坂 悪意はないですよ。
運営者 まあ、この人が言っている悪意というのがなんだかわからないから、何とも言えないけれど。悪意というのは、ちょっとまずい感じがしますよね。まあそれは置いておいて。