リーマン倒産は会計基準変更に起因する
飯坂 だから、食品や電気製品や建物と、金融商品を比べるのはちょっとやっぱり無理がありますよ。
運営者 そこなんですよ、僕が一番知りたいのは。何がどう無理なんですかねえ?
高安さんの論理というのは、これまで話してきてわかるように、オプションとそうでない金融商品を、保険機能に目をつけて一緒にして非難がましく誘導するような論理立てでずっときています。その点が彼の立論をかえって疑わしくしているように私にも思えます。
悪意という言葉に関しても、法律的な意味での悪意と、一般的に使われる悪意をあえて混同して使っているようにも思われます。
だけど、なぜ建築や食品と、このように高度な金融商品が金融商品が違うのか。組成した金融機関に製造物責任がないのかということについて、納得性のある答えがあると一番ありがたいのですが。
飯坂 結局、今回の金融危機にはいろんな人が加担してるんですよ。僕の思うところでは、会計基準の問題が一番大きいのかもしれないなと思うんです。
時価会計制度というのは、金融機関ではもうすでに20年やっている話ですから、ある種必然とも言えることなのですが、将来予想しうる利益や損失(の現在価値)を、発生時点でP/Lに反映させることになっています。一方で会計士というのは「できるだけコンサバティブにものを見なさい」というわけです。
運営者 よく知ってますよ、私も監査役やってましたから(笑)。
飯坂 そのコンサバティブというのが何を意味するかが問題です。会計士のいうコンサバティブっていうのは、今すぐ、今日にでも売れる値段でマーク・トゥ・マーケットしなさいという意味なんです。
運営者 ホントにそんなこと言ったら、売れるものなんか会社にはあまりないんですけどね。
飯坂 それをね、07年11月15日から施行されたFASB(米国財務会計基準審議会)基準書第157号「公正価値測定(FAS157)」という基準で、金融機関の持つ市場性資産を3つに分類したものを公表しますということになったんです。(この分類自体は以前からあります)
・株式や債券など市場取引が活発なレベル1 (マーケットで価格が直に分かるもの)
・金融スワップなど取引はさほど活発でないが価格は比較的計算しやすいレベル2 (レベル1のように価格の明らかなものを参照すれば価格が簡単に推定できるもの)
・取引が少ない上に価格も計算しにくいレベル3 (内部モデルによって価格が算出される)
このような分類で公表しなさいということになったんです。
このレベル3のアセットを公表したことによって、マーケットはレベル3のアセットを多く持つ投資銀行の株を売り始めたんです。レベル3のアセットは価格がつかない=紙くずかもしれない、という憶測が広まったんですね。証券化商品は、投資銀行の中でも株や国債といった伝統的商品の部門の人たちからは、今は儲かっているけどよくわからない新しい商品、と思われていたのでしょうね。
そのときに、空売りを専門に行うようなヘッジファンドがガンガン売ったので、まずベア・スターンズがやられてしまいました。リーマンもその半年後には逝ってしまった。
保有資産の開示をより詳細にして透明性を高めるための措置が、逆にマーケットの材料とされてしまって、混乱が増幅してしまう結果になってしまったといえるかもしれません。