住宅ローンの証券化商品のいくつかの失敗
運営者 だけどアメリカの不動産市場は十年以上も上がり続けているわけでしょう。そのまま上り続けるわけないじゃないですか。アホじゃないのか。要するにババ抜きなんですから、こんなもの。
飯坂 全部がババになっちゃったんですよ。
運営者 そこでうまく抜けた人が、バブルの時の勝者だったじゃないですか。
飯坂 そういう人もいるんですよ。
運営者 だったらなぜプロ中のプロである金融機関がそのリスクを回避できなかったかというのが、わたしにはわからないことなんですよ。
飯坂 今から振り返って行き過ぎだったんじゃなかったのかなと思うのは、そもそも債務担保証券(CDO)という仕組み自体はコーポレートファイナンスのアセットを対象にしていた証券化商品なんです。CDOの原債権は社債やクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が入るはずなんですけど、そこに「格付けが同じなんだからまあいいだろう」ということでサブプライムをはじめとした住宅ローンの証券化商品を原債権としてCDOを出してしまったということがあります。
ここのところは、まあちょっと甘かったのかなという気がしないでもありません。
運営者 住宅ローンは焦げ付きリスクが少なくて信用性が高いと考えられていましたから日本の感覚であれば分かるのですが、アメリカだとどうなんでしょうね。
飯坂 それとCDOを評価するための原債権である住宅ローンのデータベースの構築を、多くの会社はアウトソーシングしていたんです。
その最大手でインテックスという会社があるのですが、投資銀行はそうした会社からデータを買ってきて、仕組みを作るようになってしまったんです。
90年代は、すくなくともトップ8に入るような投資銀行であれば自前で何十億もかけてコンピューターシステムを作っていたのですが、買ってきたほうが楽じゃんということでみんなが買い始めました。モーゲージ証券を得意としていたリーマンやベアー・スターンズは自前でやっていましたが。
つまり、自分のところで組成をしたMBSについてはどこでもデータを持っているわけですが、他社が組成したMBSについては、「リバースエンジニアリング」という言い方をしているのですが、出てきた商品の目論見書から中味を推定してモデルに組み込むということをやっていたんです。
運営者 それはどのくらい信用性があるものなんでしょうか?
飯坂 目論見書や運用報告のマンスリーレポートには、投資家が当然知っていなければならないことは記載していますから、中味がすべてわかるわけではありませんが、この程度の誤差はあるだろうということを盛り込んだデータを作って、モーゲージ証券に強い投資銀行はは自社のデータベースを構築してCDOを作っていたわけです。
ところが米系でもモーゲージ証券に力を入れていないところは、コスト削減のためそうしたリバースエンジニアリングを大方やめてしまって、インテックスのようなサードパーティからデータを買ってきてCDOを作るようになってしまったわけです。サブプライム危機発生後、自己保有アセットの評価のため、あわててデータベースの再構築を始めました。
しかし欧州系においてはそんな部署は過去においてもなかったりするので、システムの痕跡すらなく、サブプライム関連証券を自前では評価したくてもできない事態になったのです。
これもまた、CDOがクラッシュした大きな原因のひとつだと思います。