監査法人にも適正な評価のため金融工学導入を
飯坂 ところがモーゲージ証券が強くないところは、そうしたリバースエンジニアリングをやめてしまって、インテックスのようなサードパーティからデータを買ってきてCDOを作るようになってしまったわけです。
これもまた、CDOがクラッシュした大きな原因のひとつだと思います。どういうことかというと、データをサードパーティに依存していたことにより、極端な市場環境のもとでCDOを適切にプライシングできなかった、危機対応がすぐにはできなかった、ということです。
運営者 それはサードパーティの責任になるんでしょうか
飯坂 いや、これはまさに売り手責任の問題に該当するようなことです。人任せにしていたわけで、順調な時はよかったのですが、極端なケースになってくるとどのくらいな確度があるのかということが判断できないわけです。
運営者 10年以上も相場が上がっていたのなら、そもそもは極端なケースじゃないですか。
飯坂 そういう意味で言うと、1994年にモーゲージマーケットがクラッシュしてオレンジカウンティやP&Gが損失を被ったのが最後ですから、15年近い上昇ですよね。
そしてRTC(整理信託公社)の成功により、政府系のファニーメイとかフレディマック以外のMBSが大量に出てくるようになり、サブプライム証券のようなものが売れるマーケットができて広がって行くわけです。
運営者 サブプライム商品の評価に関してはどうだったんですかねぇ。
飯坂 一定の仮定条件のもとで算出したキャッシュフローを、リスクフリーレートに信用スプレッド等を上乗せした金利でディスカウントした現在価値という基本線は変わらないですよ。
ただし、住宅ローンデフォルト率の上昇等により仮定条件は変わってしまうし、サブプライム機器によりスプレッドは大幅に拡大してしまうし。自前のデータベースを持っていないと極限状態におけるシミュレーションがまともにできなかったのです。
自前のデータベースによって、それなりに確度の高い評価をしたとしても、監査法人はそれをチェックできないので、内部評価のみで評価したアセットについては、保守的に注記せざるを得ないと。これがレベル3アセットです。
会計士としても、エンロンやワールドコムなんかのことがあったので極端にコンサバティブになってるような気がしますよね。下手をしたら5大会計事務所が1つ潰れちゃうんですから。
運営者 とっても迷惑でしたよ、青山監査法人が潰れて。
飯坂 結局そこも、法律の問題に行きつくんです。監査法人自体もつぶれるかもしれないし、会計士も巨額の賠償請求されるかもしれないというのは、会計士にとっては恐ろしい話ですから。
運営者 そうするとコンサバティブな評価になると。
飯坂 過度にコンサバティブな決算発表は、過度にレバレッジをかけた投資と同じくらいに罪作りだと思いますよ。
本来であればマーク・トゥ・マーケットのためには、会計士自体が金融工学の能力をつけて、「適正な時価評価を内部モデルで出していますよ」という判子が押せるようにするべきだと思うんです。
会計士がそのような能力を身につけるか、もしくはクオンツにそうした資格を与えて、そうした時価会計モデルの評価については会計士から分離して、クオンツが行うようにするべきだと思います。
運営者 つまり、金融機関のクオンツ部隊と同じものが会計事務所に必要で、それを持って第三者的に評価したものとあまり変わりがないから、これは適正な会計であるという適正意見が書けるようにしなければならなくて、それに基づいて金融機関に対する投資ができるようにする必要があると。
飯坂 というのもひとつのソリューションかなと。