生き延びたいならまず「社会体制」を考えろ
インタビュアー 飯坂彰啓
運営者 人間には迷妄がありますよ。だから自分の足元が揺らいでいたら正常な判断なんかできっこないでしょう。
そういえば、なぜ古代ギリシャに民主制が誕生したかという話があるんです。
まずギリシアには絶対王制がなかった。貴族政だったんですね。それというのも、大規模灌漑が必要な地形ではなかったから絶対王権が必要なかったこと。それから船の所有権が国家に限られず、各地の金持ちが勝手に交易できたので、権力が適度に分散されていたということ。
それから、武器の発達がありました。それまでは丸い盾の端を左手で持って、右手で槍や刀を構えて戦っていたのですが、紀元前5,6世紀頃に、盾の中央に左腕を通して戦うことができるように盾が進化した。それで密集陣形ができるようになったんだそうです。ファランクスですね。画期的な戦法の進化です。みんなで固まって突撃して押し出していくので、それまでに較べて格段に強い陣形なんです。当時は馬に乗っていた金持ちでも、戦うときは馬からおりて、密集陣形の中に入って戦ってたんですね。
そして、当時のアテネでは、武器は自腹でした。富がなければ、そうした武器を買えません。そのころアテネの市民たちは経済的に裕福になっていたんです。だから戦争に勝てた。そして中間階層の政治的な発言力が高まった。
その土台の上に、民主制が打ち立てられたわけです。経済力が民主主義を生んだということなんですよ。
飯坂 なるほど。
運営者 でも一方で、民主制は何も解決しないということもあるんです。だからローマは、ギリシャに民主制を学んだと思いますけど、元老院に600人も議員がいても、彼らは協議機関や決定機関としては機能しなかったということです。「この連中に好きなことをやらせていたらローマは滅びる」と思ったカエサルは帝政への移行を目論んだわけです。その時に彼は、600人いた元老院の数を900人に増やしたんですって。元動員の議員の数を増やすと元老院は強くなるのかというと、そうではなくて、話が余計にまとまらなくなるので、元老院の力が、弱くなっちゃったんです。
ベネチア共和国は逆のことをやっていました。元老院が500にいたとしても、大事なことを決めているのは十人委員会という小人数の組織だったんです。
そうするとね、今の日本が低迷している原因は数あると思いますが、これだけ優秀な人間がいっぱいいて、これだけ国力があるのになぜ何もできないのかというと、国会の責任は重いと思いますよ。だけど、それ以前に、国民一人ひとりが、「自分が生き残るために国家はどのような政体でなければならないのか」ということを考えなければならないはずです。だけどそれ自体がないんですよ。カツカツの状態で「生き延びたい!」と思ったら、「どうすればいいか?」を考え始めるはずです。
ところが、日本では何をしていても生きることができるわけです。だから20代の失業が10%になっても、みんな今のところは平気なんです(笑)。
飯坂 そうだな。みんな別に漢字が書けなくても気にしないもんな。別に漢字なんか知らなくても、飢えることはないんだから。
運営者 私は気にしますよ。漢字が読めない人が増えたら、もの書きは商売上がったりですから。こっちが飢えちまいますよ(笑)。
飢えなくても、人間には元来、向上心というものがあって、「よりよい暮らしをしたい」と考えるものじゃないですか。