善人なおもて往生を遂ぐ
インタビュアー 飯坂彰啓
運営者 今年の4月1日からペイオフ解禁しましたでしょ。まあ、全面解禁は先延ばしになってしまったわけですが、それでも銀行が潰れたら預金者が被害をこうむる時代になった。金融界に対するみんなの認識を大展開するエポックですよね。
ところが、「ペイオフ対策だ」と言ってみんながやったのが、小口への預け替えだんですからねえ・・・。
飯坂 ペイオフ解禁って意味があんまり理解されてないようで、今すぐ1000万円以上の定期預金がとられちゃうみたいに思っている人が多いような気がします。新聞ちゃんと読んでるのかな、「ペイオフ対策でワンルームマンションを買いましょう」なんて話にひっかかる人。金ならまだしも。
それから、小口への預け替えで銀行から定期預金を下ろして他の銀行に預けに行くまでの間にひったくりに遭う人がいるんですよ。バカだよね~、一回限りの振り込み手数料の数百円を惜しんで、何百万円も持っていかれるわけだから。リスク感覚のカケラもないよね。
運営者 それは、そのひったくり野郎の方が正しいんですよ。金持ちそうな奴が銀行に入って、出てくるのを1日中に見張ってるわけですから。
飯坂 いやいや、そんなに簡単ではないでしょう。質素な感じの服装で、一見金持ちそうじゃないんだけれどしっかり小金をため込んでいて、ぎこちない動作でキョロキョロしながら銀行から出てきたら、それがカモですな(笑)。
運営者 ひったくり犯人の側としてみれば、一日中そういう銀行に入っていく人たちをじっと見ている。でもそれは彼にとっては十分ペイすることなんですよ。彼の方が、経済観念やリスク観念、それに相手を観察し見抜く力を持っているということでしょう。
飯坂 飢えているから、それだけ感覚が研ぎ澄まされているということでしょうか。
運営者 悪い奴の方が、経済観念や合理的思考を持っているということかもしれませんよ。悪い奴の方が、ビジネス的な姿勢としては正しいんですよ。
飯坂 いや、でもそう言っちゃいくらなんでもね。
運営者 だけど、「おれたちは善人だった」、と言いながら飢えて死んでいくよりは、どんなことをしてでも生き延びるほうが正しいと思いませんか。
飯坂 「善人、善人」と言って「善人である風潮」の中に安住しているということが問題なんです。
「人に迷惑をかけずに生きられればいいんだ」という考え方が、結局は悪人を産み出しているんですよ。そのひったくり犯みたいにもしかしたら才覚があるかもしれないにもかかわらず、悪人稼業に身を落とすに至ったのは、彼が旧日本人だったからでしょう。