新日本人のメンタリティー■
思慮
知的好奇心を持ち、情報を収集する
論理的に推論して的確に判断・洞察する力を持つ
ソニー会長兼CEOの出井伸之氏は、ソニーの業態転換や経営改革を果断に進めている優れた経営者であるが、彼が同社の社内ネット上で社員に呼びかけたエッセイをまとめた著書『ONとOFF』の中には、彼が新日本人型経営者である証左を散見できる。
彼は世界中で一線の経営者や芸術家、碩学に会い、飽くなき知的好奇心を満たし続けている。ロサンゼルスでは経営学の泰斗ピーター・ドラッカー氏と対談し、彼の提唱する「知識社会」について教授を受けている。そして本のあとがきに「これからの"Knowledge Society=知識社会"では、仕事のみならず生活すべての局面で、知識の源泉になる"興味"のあるなしが決定的な意味を持ってくる」と述べている。「OFF」の世界を持つかどうか、「センス・オブ・ワンダー」を持つかどうかで個人の知識の差がどんどん広がってしまう。「"OFF"での蓄積が、いつの間にか会社の仕事にも還流して、"よい循環"が生み出されてゆく」と書いている。それが知的ビジネスマンのあり方であると。
まことにこれは、新日本人の要件に他ならない。知的好奇心のないビジネスマンが、今後の環境変化の中で生き残れるとは思えない。
カルロス・ゴーン氏は、破綻寸前だった日産に資本注入したルノーから、日産を立て直すため派遣され、見事にその期待に応えた。自著『ルネサンス』には、彼の実践的な経営観が書かれているが、その中で意思決定についてこう書いている。
「私は気まぐれな決断は下さない」「仕事のプロセスが尊重されるように促し、関係するあらゆる意見を聞き、そして確固たるビジネスの論理によって決断を下すように心がけている」「車のデザイン会議では、私は自分の好みとは関係なく顧客の嗜好に基づいて決断を下す」「感情というものは個人的なもので、プロ意識とは別物だ」
ビジネス上の意思決定の際には、可能な限り情報を収集し、全体を広く見渡して予見可能な将来の可能性を見極めた上で、ロジックに従って情報を統合し推論して、選択肢を漏れなく提示する。その選択肢をさらに論理的に絞り込んで決定を行う。
……当然だと思っている人にとっては、不思議でも何でもない思考の道筋であるが、これを論理性のカケラも持ち合わせない旧日本人に期待してもむなしい。彼らには、全体利益を勘案しつつ、物事を深く思い巡す能力が欠落している。
彼らはいとも簡単に問題の結論を得ることができる。なぜなら深く考えていないからだ。
○自分が利益に責任を持つ範囲を、自分の周囲の非常に狭い範囲だけに限定して物事を考えている
○旧日本的組織においては、全体利益を無視して行動した結果として失敗しても、全員が平等に不利な状況を受け容れるのであるなら、不満は出ない。従ってシビアに損得を考える必要がない
○基本的に目上の者の決定や周囲の判断にみんな従順であり、結果の是非を問われないので、鋭い判断力を磨く必要がない
といった理由からである。
だから旧日本人には論理性を発達させる契機がなかった。また彼らは、辻褄合わせだけして物事を誤魔化すことが少なくない。将来行く先で必ず矛盾が噴出するのがわかっていても、その場が丸く納まるのなら容易にそちらの方を取ってしまう。決して矛盾の指摘に耳を貸さない、問題が露見しても自分の責任を感じることはない。
新日本人は先回りして熟考し、そうした抜き差しならぬ状況に落ち込まないように先手を打つ。