政府の介入が市場を歪める
財政出動のもう一つの問題点は、財政は市場経済原則の枠からはみ出していることです。公共事業はある特定の産業分野に対して集中的に配分されます。だからそういう業界は政治活動を支援しても十分ペイするわけです。
よく国会や霞ヶ関の周辺を農業関連団体や労働組合がデモしているのを見かけますが、六本木ヒルズやアークヒルズに入っている外資系証券会社の従業員が国会にデモをかけたという話は聞いたことがありません。めんどくさいデモをするのは、「政治家とのつながりがあるので政治活動をすればそれなりの効果がある」とわかっている分野の団体なのです。だからそうした分野の人たちは仕事で頑張ろうとするよりも、ますます政治との関係を深めようするわけです。その方が財政支出の恩恵に預かることができますから。
しかし財政からの支出が増えれば増えるほど、経済社会全体からみれば、特定分野に資源が集中することになります。その分野が経済効率がよいのであればまったく問題はありません。だけど公共事業の恩恵を受ける産業は、どちらかというと、生産効率を上昇させるよりも政治活動を一生懸命やっている人たちです。そうするとこうした分野に偏った公共事業は、全体資源の浪費になりますし、本来であれば市場競争に負けて淘汰されるべき企業をいたずらに延命していることになります。株価だって、政府の公的資金や公的金融の運用、日眼による購入で買い支えられているのが実情です。
またそうした産業が政治家や役所と密接に結びつくのは不正利得の温床にもなりかねません。実際に鈴木宗男問題ばかりでなく、毎年多くの汚職が摘発されていますが、その大多数は公共事業に関連しているものであることは明白です。北海道のある市ではほとんどの公共工事について、市役所の職員が100社以上の土建業者に発注を割り振っていたとして公正取引委員会に注意されました。たまたまこの市は談合に関与していたと目される前市長が選挙に落ちて、ことが明るみに出たのですが、こんなことが全国で行われているとすると税金はかなりムダにつかわれていることが想像できるでしょう。「談合によって余計に落ちたカネがもっと他の有益な使い方をされていたら」と考えると、怒りをおぼえない人のほうが異常なのではないでしょうか。幸いなことに、いま全国でこのような旧日本的な社会的不正に対する反対の声が上がりつつあります。どんどんやるべきだと思いますね。