タコツボ社会の構図
閉鎖系階層構造の中では、ひどい不合理や低生産性が野放しになってしまう。
知恵も労力も搾り取られる哀しいシステム
この大きなピラミッドは、いくつかのピラミッド型のタコツボに分けられます。これが「タコツボ社会」です。おのおののピラミッドは、閉鎖的で互いに行き来がありません。
昔であれば、企業系列は財閥系金融機関を中心とした5つくらいの集団に分かれていて、各々の集団は親会社・子会社・孫請け企業というワンセットの企業集団を抱えていました。その企業集団は特定の政治家や役所にまでつながっている力関係の連鎖になっていて、独特の経済秩序をつくっていました。
だから料亭では三菱系企業のお客さんが来たらキリンビールを出すように、また住友系企業のお客さんが来たらアサヒビールを出せるようにと、ビールを何種類も揃えておくのは当然のことでした。三菱自動車は、ほとんど三菱系企業の重役が乗るためだけにデボネアという高級車を出していて、22年間もモデルチェンジをしなかったので「走るシーラカンス」などと呼ばれていました。今でこそ銀行が自滅したために金融系列が崩れてこうした傾向は薄くなったかもしれません。だけどタコツボ的な発想はみんなの意識の中にまだまだ生きていると思います。
こういう傾向は、地方に行ってもまったく同じですが、地方では企業系列の数が少なくて、その分政治や自治体と密接に結びついていて、タコツボの数が少ない(下手をすると一つしかない独裁社会)かもしれませんね。
日本の社会は、寡占状態にあるこうしたタコツボがいくつか束になって大きなピラミッドを形成しているのです。
一つのタコツボは、外部に開かれていない閉鎖系のシステムで、上の層が下の人たちを支配する階層構造をなしています。人びとは学校を卒業して会社に入った時点でこの階層構造のどこかに座を占めることになりますが、階層構造の間を移動するのはたいへんむつかしいことなのです。特に下から上に登るのはほとんど不可能です。みんなその階層の中に籠もってじっと定年まで過ごします。
階層構造の頂点にいるのは親会社や元請け会社で、1部上場企業のような大企業はここにどんと座っています。しかし彼らは自分ですべての仕事をやるわけではなくて、下請けに仕事を任せます。丸投げする場合も少なくありません。下請け会社はお金を中抜きして、孫会社や孫請け会社にまた仕事を投げます。問題なのは、親会社や子会社が優越的な地位を持っていて、下請け会社や孫請け会社は交渉の自由が制限されていることです。仕事を発注する側の会社は、下請け会社が他の会社の仕事をすることをよく思っていません。「他のピラミッドに属する会社の仕事を受けるのは、裏切り行為だ」とすら考えています。
では下請け会社が十分満足するほどの値段で彼らの仕事を買っているのかというとそうでもありませんから、ひどいものです。下手をしたら知恵も労力も下の者から搾り取っているくせに、下位の者はほとんど飼い殺し状態の低賃金にあえぎ、上位の者は労せずしてぬくぬくと過ごしているという関係がみられます。