知恵も労力も搾り取られる哀しいシステム2
タコツボ社会の不合理をまとめてみましょう。
【収奪構造】
まず最初に、上が下を収奪するという関係があります。何をもって収奪かというと、「自分がつけた付加価値に給料が見合っているか」と考えると、下に行けば行くほど、労働時間は長く、単位当たりの賃金は安いという傾向があります。上位の者に利得の偏りがあるからこそ、現在得をしている彼らは、状況の変化をきらって改革に抵抗するのです。
付加価値の観点から行くと、下の層の人がどんなに頑張ってよいアイデアやノウハウをつけたとしても、その成果は市場価値で評価されません。なぜなら仕事の発注元に独占的な購入権があるからです。であるなら、下の層の人は頑張って自分の知恵や能力を発揮しようとしないでしょう。そうやって多くのアイデアが生まれるチャンスが失われるのは社会的な損失だと考えられます。
【流動性や個人の自由がない】
この階層秩序は固定されていて流動性や個人の自由がありません。他のタコツボには移動できず、下の層に移動すると損することが分かっていて、かつ一度転落したら復活のチャンスがないわけですから、みんな現在の立場を守るために必死になります。よい仕事をしても評価されない減点主義の競争の中で、みんな内向きになって責任から逃げ回り続けています。そしてうまくすれば他人の手柄を横取りしてやろうと虎視眈々と狙っています。時間に余裕がある上層の人ほど、仕事をするというよりも、タコツボの中でのゼロサムゲーム(全体の和が一定で、誰かが得すると他の誰かが損をするゲーム)にエネルギーのほとんどを費しているという感じでしょう。
【マーケットの否定】
3番目に、これはもうこの国の行き詰まりのおおきな原因としてたいへんな問題なのですが、タコツボ主義者はマーケットの存在自体を否定します。「市場主義」がきらいなのです。彼らはタコツボの頂点にいますから、「自分たちに不利な取引条件はすべて否定し、タコツボの下層には自分たちの優越的地位を利用して不利な取引を押しつけていればよい」と考えていますし、「新規参入者を排除するためには他のタコツボと談合すればよい」と思っていて、実際それを実行しています。こうした姿勢は尊大な態度や、独りよがりな行動傾向に結びつきます。
これに対して、市場主義者は、「自分をある程度マーケットにオープンにし、他人に自分の仕事への参入機会を与えて、そこでもたらされたチャンスを活かす」という戦略を採っているのです。つまりタコツボ主義者は、リスクを取るのが恐いので、チャンスがほしくない臆病者なのです。「いまの秩序を守っていれば、タコツボの頂点に居続けられる」と思っているから、マーケットの中にあるチャンスを見ようとしていないのです。