知恵も労力も搾り取られる哀しいシステム3
【経済原則を無視した資源配分】
4番目に、経済原則を無視した不効率な資源配分が起こりがちになるという大問題があります。親会社や元請け会社の人たちはお金をどう配分して何をつくるかを決定する権限を持っていますが、彼らが決定したプランよい結果を上げても彼ら自身の評価が上がるわけではありませんから、資源配分についてはあまり深く考えません。むしろ彼らが考えているのは自分たちの権限や自由にできる予算をどのように増やすかということであって、全体効率は全然問題ではないわけです。だからせっかく集めた資源が、効果を考えずに無駄に使われてしまうのです。
【低生産性】
5番目に、タコツボ社会は生産性が低いという問題があります。いちばん効果的なお金の使い方を知っているのはアイディアを産み出したり、実際にオペレーティングを行う現場なのですが、彼らの声は上の層には届きません。だから大きな無駄が発生しているのです。タコツボの外の世界との交渉もあまりないので、いろいろなところで、もっと連絡が良ければモノになっていたはずのビジネスチャンスが失われています。発注側の人間は冒険をしませんし新しくつくられたものの価値を積極的に評価しようとしませんから、誰かが何か新しい商品やサービスやシステムをつくって、それが売れてから、「どうやら素晴らしいものだ」ということがわかって、やっと「よいこらしょ」と腰を上げてマネしようとします。ですから常に、先行者利得を逃す結果になるわけです。
また、タコツボに閉じこもっている人は「新しい価値をつくるのは貴いのだ」と思っていないので、自分で何かをつくり出す喜びも知らなければ、創造の苦労も知りません。ほかのタコツボとの連絡がないので、新しい知識や発見が共有されず、箱庭思考になってしまいます。さらに問題なのは、自分でクリエイティブな仕事をしていない人は、他人が何かをつくっても、その価値や有用性を評価できないのです。こんな人がマネジメント層にいたのでは、いまの混迷状況を打ち破るために必要なアイデアが出てきませんし、目の前にあったとしても採用されません。これでは組織はますますじり貧に陥っていくばかりです。
小さな独占を基礎にするタコツボ社会では、競争原理が力をまったく失ってしまいます。これも不効率の一因です。それからタコツボ人間は上下関係や見栄や体裁に気を配る分、損得勘定がおろそかになります。本来はビジネスなのですから、「自分が損するか、得するか」で物事を判断すればいいだけなのに、それよりも往々にして「他人にどう思われるか」を重視した誤った判断をしてしまいます。「周囲の目」以外に、何も考えていないということですね。
【ユデガエルになる】
最後に、これはたいへん大きな問題なのですが、タコツボに閉じこもっていると環境変化に対する感度が鈍って、結果として切迫した危機感をもたなくなってしまいます。「世間はたいへんだけど、うちの会社が潰れるようなことにはならないだろう」と根拠なく楽観するからです。しかし、危機感がなければ問題意識もありませんし、ましてや改革の努力を払おうとはしないものです。儒教精神に馴染んだ旧日本人たちは、いまの秩序にしたがって生きるのが大好きです。「なにも動かさず、流れのままに受動的に生きるのが処世術だ」と思っています。
こうした態度は改革に対する大きな障害になっていると思います。