【社会性】
もうひとつ、自立性から分かれる方向性は、「社会性」を持つということです。
社会性には2つあって、まずひとつは「自分は仕事を通して社会全体につながっている」という「社会参加意識」です。どんな仕事も、自分のためではなく人様のためにやっていることです。そしてその相手の人はまた仕事によって他の人につながっています。ですから自分は、仕事によって社会全体につながっているわけです。だから自分がよい仕事をすれば世の中に貢献できますし、その反対に自分の利益だけを考えていいかげんな仕事をしていれば、日本全体がダメになってしまいます。またそういう意識を持たない人が多ければ、やっぱり日本経済はダメになってしまうでしょう。
公益や公正性を無視してしまうと、人は利己的に振る舞うようになり、全体がおかしくなって、どんなに繁栄を極めた社会でもさっさと没落していくわけです。「情けは人のためならず」とは、「他人のことを考える姿勢は回りまわって自分を助ける」という意味です。何事も冷笑して傍観することしか知らない人が多い世の中ですが、これを知ることはほんとうに大切なことです。
もうひとつの社会性は「顧客志向性」です。これはビジネスでお客さんのニーズをうまくつかむこと、あるいはお客さんの利益を最大化するように心がけることをです。当たり前のように思うかもしれませんが、実際のところ旧日本人は社内の都合をお客さんより優先しています。例えばお客さんにリクエストされても「うちではその仕事はやってません」と断ってせっかくのビジネスチャンスを無駄にしたり、逆に「社内でこういう人材が余ったからこの事業をやろう」と考えたり、顧客に自社の都合を押しつけているのに、「これがうちの顧客のニーズに合っている」と勘違いしている人はかなり多いと思います。それではものは売れないわけです。
相手のことを本当に大切に考えていれば、「相手にとってほんとうに価値があるものは一体何なのだろうか」と考え始めるはずです。そうすると、「あらゆる人にとって値打ちがあるものとは一体何なのだろうか」と深く考え始めます。ここからモノの普遍的な「価値」を追求しようとする姿勢が生まれてくるわけです。物事の価値をあまり深く考えない人は、自分の都合だけを優先して他人のことを本当に考えていない人たちなのです。
もしも「みんなにとってこれが値打ちがあるものなんだ」と発見したら、善意を持った人間であれば「なるべく多くの人にそれが行き渡るようにしよう」と考えるでしょう。そこから改革の意思が生まれてきます。改革者は自分の利益を図ろうとしているのではなく、みんなの利益を考えているわけです。ところがこれは旧日本人には伝わりません。彼らは自分の利益しか考えない人間であって、かつ「人と自分は同じようなものの考え方をするはずだ」と思っているわけですから、「改革者が改革を唱えているのは自分の利益を図ろうとしているからに違いない」と短絡的に考えてしまうのです。だから彼らは「改革にはすべて反対していればまちがいがない」と勘違いしているわけです。