教会からの精神的な自由の獲得
まず彼らは、教会からの精神的な自由をゆるやかに獲得していきました。それまで依存していた教会の絶対権威を否定することで、「自分で生きるんだ」という自立意識が芽生えたということです。
それによって自分の目でモノを見、自分の頭でモノを考えられるようになったので、彼らは「地球の回りを星が回っているのでなく地球自体が回っているのだ」ということに気がつきました。科学の発達が始まったわけです。それ以前は学問はすべてスコラ学という、神学に奉仕するためのものでした。正しい学問の方法は実際の自然や人の身体を見て研究するのでなく、過去に「偉い人」が書いたものを読むことでした。だから神を離れて自由にものを考えられなかったし、学問でも芸術でも何でも神秘主義のベールをまとう必要があったのです。
しかしルネサンス期には、遠近法が発達し非常に写実的な絵が描かれるようになりました。十戒にはみだりに名前を唱えることすら禁止されている神の姿も、絵の中に描き込まれました。教会による精神的支配から離れることによって、それまでの観念的な描き方からもっと現実に近づくことができたわけです。
この教会からの精神的独立は、16世紀の宗教革命によって頂点に達します。アルプスより北にいる人びとは、「神の代理人、仲介者」として権力を振るうカソリック教会の権威を否定して、プロテスタント教会を打ち立ててしまったのです。この動きの中で特に注目するべきなのはカルビンで、彼は社会的不平等や階級格差を容認し、「勤勉、規律、質素といった徳目は神の意思にかなったことだ」と考えました。こうした考え方は都市の商工業者のあいだに広まって、近代経済の発達の土台になったのです。