商業の振興・商慣行や権利意識の発達
このルネサンスの担い手は王侯貴族ではなくて、フィレンツェやジェノバといったイタリアの都市国家にいた商人や職人などの商工業者たちでした。都市には広場があり市が立ちました。ビジネスの視点がルネサンスを起こしたわけです。この時代、トルコとヨーロッパの間での交易や北ドイツの都市間の交易が盛んになり、それにともなって金融業などが発達して商工業者が富を蓄えてきました。フィレンツェのメディチ家やギルドなどの商工業者が、芸術家たちのパトロンになったのです。
そもそもビジネスというのは他の誰でもない、自分の意志で自分自身が判断して、合理的に利益を追求するものです。だから自立心が第一ですし、個人主義が発達します。「利益」には自分の利益、相手の利益、そして公の利益があるわけで、利益を追求する姿勢は「自分と相手を分けて考える」ことにつながると思います。それまでの「共同体全体でなんとかなっていればいや」というどんぶり勘定から脱皮して、物事を細かく分けて現実的にとらえる視点がそこから出てくるのです。
こうなってくると、お互い「なあなあで何とかなるだろう」と考えていてはビジネスが進まないので、契約という概念やビジネス上の倫理も生まれてきます。それまでは宗教上の理由で利子を取ることも禁じられていて、金貸しはユダヤ人の専売特許だったのですが、商人たちは為替の制度を考え出して手数料の名目で利子を取れるようになりました。それから複式簿記の仕組みがベネチアやジェノバの商人たちによってつくられたのは有名な話ですよね。
船を仕立てて貿易に乗り出すのはたいへんなプロジェクトでした。プロジェクトベースでのお金の出入りと儲けをきちんと記録して、出資者をや船乗りたちの間で分配するためにそうしたビジネスの仕組みが発達したわけです。これが株式会社の仕組みにつながっています。「航海に命をかけるリスク」を取った船乗りたちには、儲けの半分が配分され。残りの半分を出資者が取ったそうです。正当な報酬をもらえなければそんなリスクは取れませんからね。
現在世界的に通用しているビジネスのインフラは、この時期に確立されたものが少なくないと思います。