木下 その行政レベルの話で言うと、僕が前からやったほうがいいと思っているのは、現在の政府の一般食品ついての放射線物質の基準値は100ベクレル/kgということになっていますが、これを10ベクレルか20ベクレルに引き下げるのがいいと思うんです。
運営者 面白いですね、どういうことですか?
木下 その根拠は簡単なのですが、100ベクレルを計る検査機器なんてないんですよ。たいていの機械は、10か20ベクレルなんです。
運営者 なんで今100ベクレルになってるんでしょうか?
木下 「それくらいにしておけば出ないだろう」といった経済的な理由だと思います。
だけど測定器の機械性能上は10ベクレルか20ベクレルまで測れるんだからそこまで下げるのは簡単な話です。そしてそうすれば、現在の100ベクレルから20ベクレルまではリスクを避けることができます。
より厳しくするように見えるでしょう。だけど現実的には、20ベクレルから100ベクレルのゾーンにある食べ物は非常に少ないんです。
運営者 そうか! 各地の市民測定所の検査結果から見て明らかなことです。
木下 例えば加工食品メーカーが使っている原材料だと、このゾーンのレベルで汚染されているものはほとんどないでしょう。
キノコや山菜、ベリー、汚染海域の魚といったものは別ですよ。だけどたいていの食品の汚染はそこまで高くありません。
運営者 つまり木下さんは、そこまで一般食品の基準値を避けるのは極めて現実的であると言っているわけですね。
木下 そうです。つまりコスト的にも時間的にも、かける労力はこれまでと一緒で、基準値を20ベクレルまで下げることができるということです。
そのように基準値を下げることによって、「汚染物を流通させてはならない」という意識がより徹底されることになるはずです。
運営者 なるほどね。
つまり今現在は、みんな、「ひょっとしたらもう、やばいもの(放射性物質)を食べてるかもしれないな」くらいに思っているから、「見なかったことにしよう」とか「放射能については話さないようにしよう」と臭い物に蓋をして、「放射能は安全だ」と言い張っている状況にあるわけですが、そうではないと。
放射能と正面から向き合うためにも、そのように基準値を現実的に下げたほうがよいのではないのかということですね。
木下 みなさん学校給食の問題について戦っていますが、学校給食をチェックするのは、市町村ごとの個別の戦いになります。文科省には権限は無いので、国会でやっても意味はないでしょう。
国の行政レベルで対応させるには、原子力規制委員会は100ベクレルの基準値をさらに上げようとしたんだから、我々は逆に「20ベクレルにするべきだ」と提案するべきなんです。
そうした運動をできないものかと考えています。
これをやれば、食品メーカーの緊張度が一気に増すはずです。20ベクレルで引っかかりそうな材料を使っている食品メーカーはかなり焦ることになるでしょう。
運営者 椎茸とかねえ、使っているメーカーは気を使うことになるでしょうね。
木下 そうすると、20ベクレルで基準値を切るのはとても現実的なことなんです。そしてまたこうした規制の強化を、日本が被爆国として率先してやることを外国に見せることだと思います。
もちろん私の中では、汚染地からは避難すべきだという考え方は全く変わりません。だけど初期被爆の段階で早めに避難するのであれば効果は高いのですが、もうすでに4年近く経っているわけですから、避難の効果は減衰しています。
運営者 当たり前ですね。
木下 今となっては、「避難避難」と連呼しても話が始まらないですよ。避難できるのであれば、避難するに越した事は無いのですが、避難できないのであれば、被爆回避のために、一般食品の基準値を20ベクレルまで下げるのは、とても大きな効果があると思います。
食品を20ベクレルまで下げれば、飼料とか肥料とか、腐葉土とか、そういうものの基準値も見直されるはずです。
■木下黄太氏インタビュー
今そこにある「放射能危機」の本質 2014年4月
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