木下 そう。避難先のエリアの人たちは、多少放射性物質を含んだものを食べてもたいしたことはないかもしれませんが、被曝をしている子供はマイナス因子をすでに持っているわけです。だからそれ以上の被曝は避けるべきです。
そのためには、入学した学校とうまくやっていけるのかが重要です。
いちばん気にしなければならないのは、牛乳と海産物です。牛乳では今でもごく極微量の放射性物質が検出されています。事故直後は、牧草がかなり汚染されていたからですね。
運営者 学校にどう働きかければいいんですかね?
木下 どこからどこまでが安全と考えて、何を求めるかはとても難しい問題で、判断がつかないことも多いけれど、そういう中で学校に何を求めることができるかです。
例えば徳島市の教育委員会は先進的で、学校給食から放射性物質は極力排除する方針です。
そういうところもあれば、学校ごとに弁当を認めているところもあります。
交渉能力の高いお母さんが、学校と交渉して昼食から危ない食材をどんどん排除させたというケースもあります。
ですから様々なのですが、自分がどのようにこの問題に取り組むかという見通しを立てることです。
大切なのは、「何でもものごとに反対するクレーマー」と受けとめられてしまうのでなく、相手とちゃんと交渉して対応をしてもらえる社会性を持っているとして、認知されるかどうかなんです。
運営者 つまり周囲と上手に付き合えないと、避難してもうまくやれないということですね。
木下 ええ。だからインターネット上で展開されている妄想に惑わされるのではなくて、周囲との関係性の中で放射能防御を具体的にやっていく必要があるんです。自分の立脚点をちゃんと確保することが大切です。冒頭の話で出たように、地域内での政治に関わることも、そのひとつの方法なんですよ。
運営者 そうしたことは、僕なんかはぜんぜん考えなかったですけどね。
木下 僕とかあなたは情報の世界に生きている人間だから、生活自体にある種の虚構性があるからなんですよ。そこが普通の人と違うところです。
我々は今も相変わらずそうなんです。
運営者 だからこそ全国にリーチが届いて、情報を取ったり働きかけをしたりできるわけで。
木下 さっき話した、放射能防御に関する情報発信者の中でまともな人は、なぜまともなのかと言うと、そういったメディア的な立ち位置がきちんとできているからです。
逆に被曝影響に否定側の江川紹子にしても、糸井重里にしても、続いてる人はそうなんですよ。内実というよりも、立ち位置がそこにあるから、情報発信の彼らの筋はぶれない。続いている。こちらから見たら、攻撃が。
だけど推進側の人も、実は不安に思って、安全デマを流してるみたいなんですけどね(笑)。
僕は糸井氏が格闘家の前田日明さんに「放射能は大丈夫だ。東大の早野龍五先生とも本を一緒に出して、早野先生が大丈夫と言っているから」と強く言われたことを聞きました。
早野教授信仰なんですよね(笑)。この上で、体も大きくて強い前田さんが、賛同してくれたら、更に安心できるから、糸井さんも言ったのでしょうが。。。
でも前田さんは僕に「そんなの厳しいに決まっているじゃないですかね」と。
運営者 なるほど。いくら自分の不安を打ち消したいからといって、大きな声を出せば自分の主張が事実になるわけじゃないんですよ。放射性物質は現実的に大量に環境中に放出されてるわけですから。
■木下黄太氏インタビュー
今そこにある「放射能危機」の本質 2014年4月
「放射能防御」と脱原発を巡る、もろもろの事情 2013年7月
被曝回避、放射能防御の現状と展望 2014年11月