小泉改革は「超然政府」との闘い
インタビュアー 飯坂彰啓
飯坂 昔から、勝手に決めごとの解釈を変えるという部分はあったと思うんだけど、それが悪い方向に行き始めたのは、豊かになってしまったからなのかな。発展途上国の方が汚職が蔓延しているだろうけど、日本の場合はそれとは違った病理があるような気がします。民間が豊かになってきたから、自分の持っている権限を金に換えることを考える外務省の松尾のような人間が出てきたのではないでしょうか。あれは外務省にとっては大きなブレイクスルーだったわけでしょう。
運営者 「あ、こういうふうにやればいいのか」ということがみんなわかったわけですね(笑)。
どこの役所でも、財団法人をつくって天下りをして組織を支配するということを最初にやるバカがいたわけですね。毎日昼間から麻雀をやって、夜は料亭で接待、土日はゴルフ、2年たったら退職金をがっぽりもらって次の天下り先に行くと、こういうことを最初に考えた奴がいるんでしょう。それをみんながマネするようになってしまったと。鳩山さんが、党首討論で例を挙げてましたね。天下り先3つで、退職金は5億と。退職金に所得税がかからない理由は、これなんじゃないかと思っちゃいますよね。
結局、制度がどのようになっていようとも、その中でやっている人の意識が変わってしまえば、このように水が低きに流れるように、人は易きについてしまうんですな。
飯坂 でも制度が力学的にそうした人の暴走を抑えられるようになっていればそれを抑えられるわけですが、高度成長期にはそうしたチェック体制は向かなかったのではないでしょうか。メディアが発達する前は、内輪で制裁することもできたでしょうけど、処分すれば外にバレて組織全体に傷がつくから、表向きなかったことにしようとするようになってしまったのはいつ頃からでしょうか。
運営者 検証してみなければ分からないのですが、三権分立の仕組みはちゃんと憲法に織り込まれているわけだし。
飯坂 だって三権分立になってないじゃないですか。
運営者 ハンセン病の地裁判決に対する控訴を国が取りやめたのは、政治家が本来の役割を取り戻し、官僚支配に対抗する一歩を踏み出したものとして評価できるというのは、この前このサイトでも意見陳述した通りなんですが、面白いことにあのような捉え方をしたマスコミ報道というのはあまりないみたいなんですね。
飯坂 マスコミはわかっていて言わないだけではないんですか。本当にわかってないんですか。
運営者 たいていは、「あれは小泉首相が役人をいじめて人気を取っているんだ」と理解しているみたいですね。まあ、水戸黄門や金さんが、悪代官や小役人を懲らしめているという感覚でしょう。
違うんですよね、小泉首相は役人のトップなんです。この点がすでに理解できていない。議院制内閣では内閣を構成する閣僚と政府は一体であるという認識がないわけです。「官僚や政府は、政治家と全く関係のない超然的な存在である」。「超然政府として存在する」というのが一般通念なんです。
飯坂 超然内閣ではなくて、超然政府ですか。
運営者 政治家というのは、この超然政府のはしためとして飼育されていて、何か不都合が起きたときには国民の前にさらされてサンドバックにされるというのが政治家の役目なわけです。そういう仕組みをつくってきたのです。
政治家の悪口というのは、特に情報力のある役所の官僚が教えてくれるわけです。だから役人が都合が悪くなったら、政治家はメディアによってつぶされてしまうわけです。
そういう関係性だと理解しなければなりません。