不合理なサル山的組織運営
インタビュアー 飯坂彰啓
運営者 それでね、人間は猿よりも社会的に進化しなければならないと私は思うんですけど、これはどうですかね。
飯坂 個体が生物的に進化しているから社会をつくれるわけではなくて、個体同士の関係性によって決まるわけだから、サルも人間もそんなに変らないと思うんです。社会構築能力における人間の猿に対するアドバンテージは、論理的思考力、洞察力、想像力、記憶力、シミュレーション能力といったところでしょう。でも現実を思い起こしてみれば、こういった能力を活用して社会を構築している人がどれだけいるか(笑)。
あと社会が開放系か、閉鎖系かによっても違うでしょうね。
運営者 猿山は閉鎖系だと思いますよ。リーダーにとっては、自分の実権の及ぶ範囲に明確な線を引くことが重要なんです。これはひとつのシステムなんですね。システムとは、外縁があって、求心性があって、サブシステムに分かれている。猿山でいうと、メスとその子供というのがサブシステムになるでしょう。「ここまでは自分のシステムの構成員であり、縄張りである」とはっきりさせるのが非常に大事なことなんです。
飯坂 それは非常に大事なことですね(笑)。
運営者 みんなやってるでしょう。ちょっと中途半端な立場にいると、呼び出されて、「お前どっちにつくんだ」と。「腹を割って話し合おうじゃないか。いったいどっちなのかな君は」とか、頭の悪い奴だとそういう言い方をするでしょうね。
飯坂 自分が配属されたところの長のために働くというのが、組織で働くということの基本のはずですが。
運営者 組織が組織目的のために機能している場合はそうでしょうね。でも日本の組織の中で組織目的のために構成員全員が働いているところなんか、見たことはないですけどね。
飯坂 だから同じ部にいても、どちらにつくのかということを問いつめられたりするわけですよね。それは結局組織目的に沿って組織が動いているわけではないということの証明になりますよね。縄張り争いしているだけで。
これはもう、「おまえら真面目にやれ」としか言いようがないですよ。
運営者 でも彼らはまじめにやってるつもりなんですよ。猿山の中での役割を果たしてマウンティングもされてるわけですから。
飯坂 じゃあ猿山に合った仕組みに会社の組織を変えればいいですよね。ボスの下にずっといて、転社するのであれば、そのユニットごと移っていくというようにして、ボスが全部人事権を持つことにすればいいのでは。それが気に入らなければ、ボスのもとを離れればいいだけだし。これは一見非効率に見えますが、目的と組織が一致すればそれは多分うまく行くんだと思いますよ。
運営者 でも閉鎖系だとパフォーマンスが悪くて、開放系でやっている外資に負けてしまうんですよ。
飯坂 そうすると他の集団に負けないために、そういう不合理なサル山的組織運営をやっているわけだ。
運営者 それで構成員はギリギリと締め付けられているんだけど、そのようなピラミッド構造の中にある限り、絶対に負けると思います。日本企業は絶対に負けることを続けているわけです。
変われないんですよ。
だからいま起こっているのは、絶望的な無関心だと思いますよ。若い人は、「僕には関係ないね」という感じでしょう。そうするとどうなるかというと、組織に入ることの魅力が著しく低下しているんでしょうね。それがまた、今の企業がだめになる原因のひとつですよ。
猿山の構造はすでに崩壊しかかっているんだけれども、それを如何にして再構築するかという方法は見えていない。
それは学校も同じなんですね。生徒に関心がないみたいなんですよ。「学校に行って教えてもらうことは自分たちが生きていく上で不可欠なことなんだ」とは考えていないわけです。