日本型システム依存のものすごい貧困
インタビュアー 飯坂彰啓
飯坂 それはまあ、端的に言うと経済の仕組みがすっかり変わってしまったのに、自分たちは変わることができなかったということなんだと思います。
運営者 そうですね。そして自ら変わる意思がなかった。
状況変化に対する認識もできていなかったと思いますよ。だって、大蔵省を頂点としたシステムの中に入ってしまうと、自分の上下左右のプレイヤーは認識しますけど、環境変化に対する認識は必要でなくなりますから。
飯坂 さらには、高度経済成長システムの中では、間接金融に頼っていた新日鐵もトヨタも、全部大蔵省の傘下に入っていたわけです。
運営者 非常に重要な認識だと思います。だから大蔵省が旧日本型システムの総元締めなんです。実態的にも、精神的にも、彼らが日本を支配してきた、その結果が今日であり、日本社会はいまだにこの呪縛から抜け切っていません。この事実は、銘記する必要があると思います。
飯坂 ところが、ポスト高度経済成長の時代に入って、きちんとした経営をやって大きくなってきた企業は、銀行中心の間接金融のシステムから抜け出ることができました。
銀行にとってのプロフィットセンターである彼らが銀行のくびきから抜けてしまったことに気がついた銀行は、次の稼ぎ頭として不動産融資に走ってしまったわけだな。「不動産融資は男の仕事だ」などと訳のわからないことを言って貸し込んでいった。でっかいもの作ってプライドを満足させていたわけです。思想がないんだな。
運営者 バブル期の高株価に支えられて、転換社債で資金調達をした企業の方も、それによって経営効率を改善させたわけではありませんしね。どちらかというとやっぱり不動産投資に走って不良債権をため込んでしまった。まったくもって意味がないことです。
ものすごい貧困ですよね。実際のところ、銀行に関してはもう終わってますね。できるのは延命だけです。メインバンク制度も崩壊して、直接金融も機能していないので、資本を蓄積する制度が完全に麻痺している。この社会は「信用」を創り出すことができない。みんななぜかぜんぜん認識がないけど、日本経済はもう死んじゃってるんですよ。完全に終わりました。もう希望はないと思います。
それってどういうことかというと、まともなことをしても意味がなくなったということです。クラッシュするか、順調に縮小するか、どちらかは知りませんが……。 それに論壇も一緒に死んでますよ。そういう危機認識を醸成できないんですから。本 来は戦犯裁判をやらなきゃいけない状況なんですけどね。
飯坂 「何のために」、というポリシーがないですよ。
運営者 民間企業である限り、ポリシーというのは、「反社会的なことをやらない範囲で、株主が満足できるような利潤の追求をする」ということでいいんだと思うんですよ。
飯坂 日本型システムのピラミッドの中にいましたから、そうした民間企業の経営者たちは決して精神的に自立していなかったのでしょう。自立していなかったが故に、何の思想もなく、何も考えずに付和雷同的に不動産融資に走ってしまったわけです
。
運営者 ピラミッドの中に入れば、色々と満足の仕方はあるんでしょうね。
飯坂 それでは満足していたんだろうけど、結局銀行の経営者というのは真の意味でのエリートでもなんでもなかったんですよ。
ピラミッドの中での満足というのは、まず隣の同僚の自分に対する評価なんです。同期の人間に比べてどれだけ自分が先に出世するかということ。なぜ自分の隣の同僚かというと、自分と他人の差違というのは、身近であればあるほど大きく見えるものだからなんです。
運営者 なんだ、ばかばかしい。結局自分自身の評価を他人にしか求められないというのは、自分が、自立した価値を持った存在となっていないという証拠じゃないですか。