大衆消費市場は
「神を宿した商品」を扱っている
インタビュアー 飯坂彰啓
運営者 欧米では普及が止まってしまっていますよね。だけどアジアでは分からないですよ。
さっきの話でいうと、アジア人はまだルネサンスを迎えていなくて、精神的に自立していないから、依存する対象が必要なんですよ。宗教がその地位から追い出されたときに、消費文化がそれに取って代わったのではないでしょうかね。
飯坂 それが戦後の日本の成功を支えたんですよ。そして消費財の普及が一巡した後、今度はたいして実用性のないルイヴィトンのようなブランドものを神として崇めているわけです。
運営者 人間は自分を守るためには死ぬこともいとわないんですよ。それに比べれば、ヘルメスのケリーバッグを買うということはそんなに難しいことではないでしょう。
飯坂 「喜捨」ですよ。
運営者 喜捨はいいですよ。それによって、自分が豊かになった気がしますから。本当は貧乏になっているのに。
だから大衆消費市場で競争している企業は、消費者が自分の心の中である期間の間だけ依存することができる対象を提供する競争をいろいろな角度から行っているということなんだと思います。神が必要な人たちに、神を提供するのも、必要なことではあるんです。それがビジネスとして行われているわけです。
だけど僕は、実質があれば構わないので、この前有楽町のビックカメラに行ってツインバード工業が作っている980円のトースターを買ってきたんですけれど、これにはホントに感謝しているわけです。これまではグリルで、何枚黒こげパンを作ったことやら。ああ、ありがたやありがたや。
飯坂 それが消費の二極分化でしょう。「神を宿した商品」を売るか、そうでない商品を売るか。その中間はあり得ない。買ってくれないんですから。
運営者 市場がありませんしね。だからそういう意味でビジネスの分野では、新しい神を作る試みが行われているわけです。
飯坂 どれだけ普遍性があって、どれだけ持続性があるかというところではかなり問題があると思うけどね。
運営者 そんなものありませんから、みんな飽きたらどんどん乗り替えていくんですよ。
だから、精神的に自立性した人間が少ないアジアでは、「神を内包した商品」を売るビジネスは成功すると思いますよ。
飯坂 だって日本のアイドルを追っかけてるわけですから。
運営者 なんで欧米には日本のようなガキアイドルがいないのかという疑問がありましたが、その説明もこれでつきますよね。イギリスに行ったら、スパイスガールズというのがいて、「ジャリタレかな」と思っていたら、全然自立して可愛げがないので驚きましたが。
しかし、もし日本人が今より自立していけば、こうした「神を宿した商品」を売るビジネスは縮小していくのではないでしょうか。