■自己目的化・権威の高揚 / 自立した個人として社会に参加2
おやじ そんなこと、考えたこともなかったな。
会社はオレたちのものじゃなくて、株主のものなのか? 最近そういうことを言っている人が多いけど、どう考えても実感がわかないな。だって、会社で株主の姿なんか見たことないぞ。会社にいるのはわれわれのほうだ。
若造 これだもんなあ。それは根本的な勘違いだよ。旧日本人は、「とにかく毎日電車に乗って会社に通って席に座っていれば、働いたことになる」と思っている人が多いじゃない。目的意識がないんだよ。目的のない人たちが毎日集まって、何となく会議をしたり、電話をしたりしてるのってなんかおかしくない?
おやじ いや、そんなことはないだろう。会社にはちゃんとリーダーである社長がいて、役員もいて、彼らはわれわれの代表選手なわけで、彼らが毎年の目標や戦略を決めて、われわれはそれに従って動いているわけだから。とっても自立的な社会だと思うがな。
若造 なんか、頭が痛くなってきたな……。
だけど、予算や目標を決めるときって、下からの積み上げ方式じゃない? 「これならきっとうまくいくぞ」と思わずやる気になるようなざん新な新戦略をトップが打ち出したのなんか見たことがないよね。ぼくらから見ると、社長や経営陣たちの顔は全然見えない。これじゃ、今の路線を変えて黒字転換なんかできるはずがないよ。
それに、ちょっとできる上司なら、本当のことは役員に伝えないよね。どんなにいいアイディアを出したって、握りつぶされるか、睨まれるか、手柄を横取りされるかだから。結局役員たちは、現場の情報をよく知らずに経営している。少しましな役員のできることと言えば、部下からの提案をまとめ、色をつけることくらいでね。だから社長は偉いように見えて、実は全然実権なんかないことはみんな知っているし、営業成績はよかったかもしれないけど、ほとんど経営能力のある人じゃないんだよ。
おやじ そう言えばそうだな、社長の方針というのは、あんまり実効性がないというか、身にしみて感じられるものではないな。社内テレビのブラウン管の向こうから「未曾有の危機だっ、変革の秋だ!」と呼びかけられてもなあ……。それより気になるのは、「直属の上司とうまくやっていけるか」とか、「部下との関係がスムーズにいっているかどうか」ということであって……。
若造 結局社長は、言ってみれば天皇と同じようなもので、すごく偉い人なんだけど、直接われわれに文句を言うようなことは絶対にない存在なんだよ。そうでなければ旧日本型組織のリーダーにはなれないわけ。ミドルは「社長のため、会社のため」と言って働いているけど、実際にビジネスをどうするかについて一番権限を持っているのはミドルであって、彼らは本当のところは会社のことも社長のことも考えていなくて、ただ「出世して自分の権限を高めること」しか考えていないと思うね。
それは昔、天皇を盾にして軍部や官僚が勝手放題をしていたのとまったく同じ構図で、「カイシャ天皇制」とも呼ぶべきものだと思う。