■現状肯定 / 合目的的組織観2
おやじ まあ、今までやってきたことを、これからもずっとやり続けるというのが基本だから、何かを変えるなんて面倒くさいことは起こらない方がいいやね。
物事を変えたり、新しいものを取り入れるというのは、ちょっとよさそうに見えるけれど、まちがいの元だし、結局のところたいしてプラスにはなっていないものだし、たいがいあまり良いものではないんだよ。今までのやり方が一番まちがいがなくていいということ。
だいたいやり方を変えるとなると、社内調整が大変じゃないか。現場が混乱して、ややこしいことになってしまう。会社に居させてもらえるんだから、何より静かにしていなければならないってことだよ。そもそもうまく物事を動かす自信なんかないし。
若造 一番問題なのはそこだよね。旧日本人は、「なによりも集団秩序の維持が大切だ」と考えているから、物事を変えたり、新しい工夫をしたり、これまで通用してきたことに問題提起をするといったことが徹底的に受け容れられない。自分と違って、それをやり遂げられる人材がいることも理解できない。
それに仕事のやり方を変える時には、同僚や他の部署の人に頼まなければならないんだけど、旧日本人の場合は仕事と人格を同一視しているので、「仕事のやり方を変えてくれ」という依頼は、「オレのメンツつぶすつもりか?」と受け取られかねない。
そうそう、旧日本人を見ていておもしろいのは、人の顔色をうかがいすぎること。「自分が言ったことを相手が悪く受け止めないかな」とか「体面をつぶしたと思われないかな」とか、びくびくひやひやしてるじゃない。
おやじ 中村仲蔵が、忠臣蔵で新しい演出の斧定九郎をやるとときには、ずいぶんと他の役者や裏方にまでも挨拶して根回しをしたもんだ。すでに型が決まってるんだから。何かをするときには、まず周囲への挨拶が肝心なんだよ。
そもそも歌舞伎には舞台監督がいないだろ? みんながお互いの分を守って美しい舞台を百年かけて作り上げていく、それが日本の美学なんだ。
若造 ホントに歌舞伎とか時代劇が好きだな。
損得勘定より体面を気にする人間なんかパートナーにする必要ないよ、ズバリと条件提示して、「イエスか、ノーか」を聞けばいいんじゃない? 相手の顔色をよくするために接待にこれ務めるのはコストのムダだね。ビジネスは、実質本意で問題なしだよ。自分の気分次第で相手を選べるほど大名商売ができる時代じゃないし。
社内の人に対しても、その人がやってる仕事の生産性が悪ければ、変えてもらうのは当然のことであって、挨拶も何もあったもんじゃないよ。客観的に見ておかしいことは、みんなの利益のために変えるのは当然であって、そんなところで頑張られたのではたまったものではない。
おやじ しかしオレだったら、「まだケツの青い若造にこんなことを言われて態度を変えるというのは沽券に関わる」と思うね。