■地位固執・出世主義 / 組織相対主義
若造 旧日本人は「人間は利己的な者だ」と自覚してるし、「とにかく少しでも上の地位に登りたい」と思ってるよね。
組織に依存している旧日本人にとって、その組織の中での序列が上がることは、そのまんま「自分の価値が上がった」と証明することになる。だから出世をものすごく大事なことだと思ってる。減点主義の評価の中での出世主義だから、どんな小さな冒険も避けようとするし、保守的な考え方になっちゃう。その逆に左遷されたら人間性そのものを否定されたように悲観的に受け止めて、急に老け込んだりする。
おやじ だけどお前、出世できなかったら、サラリーマンは意味がないぞ。
若造 どうしてかな?
おやじ どうしてって、そんな当たり前こと考えたことないなぁ。出世すると、奥さんが喜ぶぞ。
若造 そういう、自分の周囲五メートルくらいのことしか気にしないところが、いかにも旧日本人の発想だね。
組織のなかで地位が上になると、自分が使い途を決定できる資源が増えてくるから、地位には意味があると思うよ。だけどそれは、資源を有効に使う能力を持っている人がその地位に就かなければお話にならないのであって、個人の側から見ると「出世するということは、よりよい仕事ができる立場になった」というところに価値があるわけだ。
おやじ まわりくどいやつだな。素直に喜べばいいのに。
若造 とんでもない。「出世するということは、だんだん大きな責任を持つということだから、期待された仕事をきちんと果たして、なるべくよい形で早く次の人にバトンタッチしたい」と、ぼくだったら考えるけどね。
おやじ きれいごとだな。人間というのは、その地位がおいしいときはなるべく長くそこに居座ろうとするし、さらに上の地位を目指すもんだよ。
若造 日本企業はそういう組織にたかる寄生虫のようなミドルのために、この10年の間に生産性を失い、ダメになっていったんだよ。
目上の者の命令はありがたがって押し頂くという封建社会なんだけど、それは「頼れる存在が欲しい」という自分の弱さの裏返しだよね。経営者なんて、本当は裸の王様。なのに部下たちは「自分には依頼心がある。だから上司は偉いんだ」という同義反復に陥ってさして能力のない上司をありがたがって無意味な仕事に時間を費やしている。
それどころか、自分が出世せんがために顧客や世の中に迷惑をかけても知らぬ存ぜぬで押し通そうとする。その内心の言い訳は「身内を守るため」、実際のところは組織に尽くして見返りを求めるということ。だけど仕事は顧客のためにやるものなんだから、そうなっていないのであれば素直に謝るか、事情が許さないのであれば組織を離れるのがプロの生き方のはずだよ。