■地位固執・出世主義 / 組織相対主義3
おやじ だからまあ、儲けは二の次ということだよ。株主総会で怖い思いをするのは役員だけだし。彼らは総会さえ乗り切れれば、会社の中では偉そうに振る舞えるんだから。
若造 株主が損をするだけだったら、まだましだよ。旧日本人は、「組織を守るためだったら、ウソついても平気だと思っているところ」が怖いんじゃないか。
典型的な旧日本型組織である警察でも、不祥事隠しがかなり頻繁に行われてるよね。不祥事があるのは仕方がないとしても、問題は「仲間をかばう」ことを大義名分に、平気でうそをついていることだよ。うそつきは泥棒の始まりだからね。仲間をかばうということは、本来の仕事の相手である市民よりも、自分たち自身を優先しているということだから、とんでもないことだよね。
おやじ しかし警官が、先輩である上司の不祥事をかばうのは当然だと思うけどね。そうじゃないと、組織の秩序が成り立たないだろう。われわれは「一家」なんだから。
組織内の空気が乱れて、日常業務に差し障りが出ては困ってしまうからな。小さな問題なら隠しておいた方がいいよ。彼らもきつい仕事を安い給料で頑張ってやってるんだしさ。
若造 そうやって、最初は小さなルール違反でも、だんだん大きくなって、とんでもない大悪事に発展するんだよ。警察が市民の安全よりも自分たちの利益を優先するのなら、警察なんかいらないということになっちゃうよ。
「一家意識」を会社という機能体に求めるのは明らかにまちがっている。それは「自己目的化」であり、プロとしての生き方の否定にほかならない。自立して生きているぼくらにしてみると、自分が属する組織のために「公」に対してうそをつくというのは、自分に対する裏切りだし、プライドが許さないことだよ。
そう言えばかなり以前、野村監督夫人が、息子の内部告発で脱税を摘発されて、逮捕されたでしょう。あれなんか、どう思う?
おやじ まったくけしからん不義不忠の行いだな。苦労して育てた息子に裏切られては、いったい何を信じていいのかわからないぞ。
若造 でもケニー野村氏は、社会のルールを守ったんだよ。市民としての義務を果たしたということだね。あるいは爆弾犯人のユナボマーを逮捕させた弟の告発とかね。自分を「社会の中で生きている存在」と考えれば、自分の肉親だからといって、悪を見逃すのはおかしいと考えることもできる。つまり、「自分が属する組織よりも、社会の方が上位に位置するんだ」ということを理解しているかどうかの問題でね。
だけど旧日本人は仕事よりもファミリー優先だから、不祥事隠しの何が問題なのか理解できないらしい。
それでそういう「世の中より自分たち優先のルール」を勝手につくるわけだ。問題を起こして逮捕されたあるカルト的な宗教団体の教祖が、「これが世界の定説です」と言っていた定説は、誰ひとりとして科学的事実とは思えないような奇天烈なことだったんだけど、旧日本的組織の中で勝手につくられている決め事というのは、彼らのいう定説とほとんど差のない内輪だけで通用する理屈だったりする。だけど不思議なことに、その組織に属している人間は、それを「動かしがたい規範」としてありがたく守っていくわけ。外の世界の人から見ていると、まったく無意味なことなんだけど。
おやじ しかし慣習やしきたりを守らないと、会社の中ではなにもまともに進まないよ。みんなの意識がそちらの方向を向いてるんだから、急に変えようたって無理だね。
若造 個人も、会社も、社会の中で生きているんだから、単なる社会の中の一つのプレーヤーに過ぎないんだよ。
だったらどうして、その社会の中で公正な競争を可能にするためのルールを無視して、自分たちだけの勝手な決め事に従っているのかな。憲法で保障されている権利より、会社の「就業規則」に書いてある決め事を優先しようとする人もいるからね。すごいよ。その不合理に気がつかないのはまったく不思議だね。そういう変則的なルールをつくり出している組織文化をなんとか変えていくように努力しなければいけないのに。
社外の人からは理解されない身内のルールに従っている人々は、他から相手にされなくなっちゃうよね。だからますます自分たちだけで固まるようになってしまう。旧日本型企業の社員たちは、他の会社の人と飲んでもさっぱり面白くないから、自分たちだけでつるんで飲みに行くことになっちゃうってわけだ。