■徒党を組み、敵味方を分けたがる / 会社は他者との共働の場
おやじ 職場で飲みに行くのは大切なことだぞ。オレもよく若い者を連れて飲みに行って、いろんなことを教えてやっているがな。
若造 それがそもそも、迷惑なんだよ。若い社員の方が可処分所得が多いんだから、普段から上司に連れていかれる店よりもいいところに飲みに行ってるんだ。だから何かを教えるにしても、まず雰囲気で負けていると思った方がいいよ。それで、何を教えてやってるわけ?
おやじ まあ最近は交際費が削られて、居酒屋くらいしかいけないけどな、そこで得られる上司の経験談は貴重だぞ。「会社とはどういうところか」ということについて目から鱗が落ちる話が聞けるんだからな。お前にも教えてやるから、心得としてよく聞いておけ。
まず、オレが若い頃にどういう仕事をしたかについてひとくさり話してやるわけだ。今とちょっと違う部分もあるが、なあに同じ会社なんだから、うちの社内ルールはたいして変わらないよ。
それで押さえるべきポイントはだな、だいたいどのセンパイ社員も仕事なんかできないもんだということ。名門企業と違って、うちの会社なんか同じような程度の人間がそろってるのさ。だからびくびくするこたあない。それにいい仕事をするチャンスというのはなかなか巡ってこない。オレも本当は実力はあるんだけど、チャンスがないから発揮できないだけだ。でも実力がある人間に対して、人事というのは不公平なもんだよ。そもそもチャンスをくれないんだからな。だから「頑張っても、あまり評価はされない」と心得ていなくちゃいけない。
それから、仕事というのは気合いと根性でやるもんだ。うじうじ勉強なんかしてもあんまり意味はないぞ。変に勉強している奴がいたら、そういう奴は何か下心があるはずだから、仲間に入れない方がいい。
会社の中で、仲間というのは一番大切なものだ。困った時に庇護してもらえる上司、貸し借りが通じる関係の同僚を社内にどれだけつくるかで、出世できるかどうかが決まってくる。
オレの杯を受けている奴なら、もうすでに仲間なんだから、何か失敗したり困ったことがあったら、オレの所に来さえすれば、失敗はわからないように隠してやる。ヤバイことは、時期が来るまで隠しておけば何とかなるものだ。
結局、会社生活というものは、信頼できる仲間と一緒にいることさえできれば、どうにか乗り切っていけるというもんなんだ。どうだ、ありがたいお教えだろう。
若造 うん、すごいなぁ。今の話を素直に信じる部下がいたとしたら、そいつはまちがいなく仕事ができないよ。
どうして旧日本人は、そうやって群れたがるのかな。やっぱり数が多いほうがなにかと安心なんだろうね。ぼくの上司もそうだけど、仕事よりも仲間をつくることの方に、時間も労力も割いているようだ。出世するというのは、「人は石垣、人は城」で、人垣をつくってその中に城主として収まるということみたいだね。
だけど、何度も繰り返しになるけれど、固定的な仲間をつくるという政治的な行動は、新しい価値をつくることとはあまり関係ないし、そもそも仕事ではないんだよ。その過程で、敵と味方をはっきり区別して「お前はどちらにつくんだ」と選択させるわけだけど、むしろ目的から乖離した無用な対立を組織の中につくることになるよね。